人類の未来

人類の危機


 真実は時として絶望よりも非情なものである。


 楽しい旅路は終わりを告げ、気がつけばアリイ達は旅の終着点にたっていた。


 もっと北側で戦うと思っていた。しかし、そうはならなかった。


 考えてみれば当たり前の結果である。


 これは魔王軍と人類の戦争。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。そうしてその先へと歩みを進めるのだ。


 そして、人類は尽く敗北。魔王軍は前進を続け、気がつけばたった一年で大陸の半分を支配している。


 アリイも分かっていたことだが、目の前にその真実を突きつけられるのは少々悲しかった。


「........既に魔王軍は子のアケニアの地まで来る準備を終え、侵攻してきていると?」

「そういう事だ。我らの長き旅の終着点はここになるだろうな。たとえ勝利しようとも、敗北しようともそれに変わりはない」

「........そうですか」

「これは予想でしかないが、魔王軍がこのようなやり方を取った理由はかつて北の戦線で苦戦したからだろう。聞いた話では、北にあった大国に相当な足止めをされたらしいな?」

「そうですね。少なくとも一年近くは足止めをしていました」

「足止めをされていたということは、いたずらに兵士を投入し血塗れの惨劇を繰り返したということ。どうやら魔王軍は反省を次に生かせる者たちらしい。比較的平時である隙を狙い、混乱を起こして一気に攻め込む。我もやったことがあるが、実際にやられると気が付かぬものだな」


 アリイはそういいながら、静かにため息を着く。


 アリイの予想は正しい。魔王軍はかつて苦戦した大国への対策というのをちゃんと練っていたのだ。


 軍事力的には大国と引けを取らないこのアケニアの国を、どれだけ戦う前に潰せるのか。彼らは必死にそれを考えてきたのだろう。


 やる側は作戦が決まって楽しいが、やられる側はたまったもんじゃない。


 アリイと言えど、流石にため息をつかざるを得ないのだ。


「どういたしますか?」

「昨日、幹部は拘束し、冒険者ギルドに身柄を預けた。今もまだ街は混乱中であり、多くの高官が死んだ今頼れるのはギルドマスターしかおらん。彼女と何とかして対策を練らねばならぬな」

「ギルドマスターが生きているのがせめてもの救いですか........」


 今回の騒動において、冒険者ギルドは狙われなかった。


 おそらく、元々の計画はあの巨大な魔人で踏み潰すつもりだったのだろう。


 現状、そこだけが唯一の救いであり、希望である。


 冒険者ギルドはまちの人々と強く結びついている。その頂点に立つギルドマスターならば、ある程度の統率を得られるだろう。


 王都以外の街にも連絡を通し、貴族達までもまとめられるかは別だが。


「王族は皆殺し、城には王族を支える位の高い貴族も多くいただろう。その全てが死んだ今、国をまとめられる者はいない。セリーヌよ。覚悟しておいた方がいいぞ。最悪の場合、我らはこの街の人々と共に戦いを余儀なくされる可能性すら有り得る」

「私達二人だけで何とかなったりしますかね?」

「戦争はそんなに優しいものでは無い。我らならば逃げるだけなら叶うだろう。しかし、敵の規模がかなりあるとわかっている。二人だけで突撃し、本気で暴れたとしても厳しいだろうな。戦争において数は力。個が軍を凌駕する場合は数あれど、限度というものは存在するのだ。我にもそれはある。友人達の手を借り、切り札まで使えばなんとかなるかもしれんが........その時はこの大陸がなくなっている可能性の方が高いぞ?」


 やろうと思えば、アリイはひとりで魔王軍に立ち向かえる。しかし、その戦いの後に待ち受けるのは、戦争の余波による大陸の崩壊。


 特に、アリイの切り札は格が違いすぎる。人類の復興まで考えればできる限り使いたくない手であった。


「それは勘弁して欲しいですね。仮にも勇者であるアリイ様が大陸を滅ぼしてしまったら、元も子もありませんよ........あぁ、最初はそのつもりでしたね。やってみます?」

「フハハハハ!!そういえばそうだったな!!だが、残念なことにその時はセリーヌを相手にしてしまうだろう?あんな馬鹿げた魔法を使う相手に小指で勝てるほど我は強くないのでな!!」

「大丈夫ですよアリイ様。あくまでも表向きは“魔王との戦いによる余波によって大陸が滅んだ”ですから。私もアリイ様の味方をすればいいのです」

「それ、本当に大陸が消えるぞ........」


 サラッと人類の滅亡に加担しようとするセリーヌ。もちろん、冗談で言っているのは分かっているので、アリイは肩を竦めながらもセリーヌの頭を優しく撫でてあげた。


 セリーヌは冗談8割、本気2割で話していたのだが、アリイが知る由もない。


 こうして崩れ去った街を歩くと、冒険者ギルドにたどり着く。


 まだ混乱が収まらず自体詳細すら分からない今の冒険者ギルドには、多くの人々が集まっていた。


「さて、我らは我らのやれることをやるとしよう。もし、どうしようもなくなったら我が全て片付けてやる。その時、人類が生き残っているかは保証しかねるがな」

「ふふっ、その時は私の名に傷がつかなくて済みますね。あれ?........アリイ様を突っ込ませた方が早いのでは?」

「セリーヌ?我、今酷く困惑しておるぞ?」


 人類の危機が迫り、絶望的な状況に追われている中それでも人々は笑顔を忘れない。


 アリイは人の強さを改めて理解すると、この絶望的な状況に立ち向かうのであった。




【巨大魔人】

 魔人達を集めてこねくり合わせてできた巨大な魔人。数によって大きさが変化し、今回は2000人以上の者達で作られた。

 作るには特別な魔法が必要。これを行使するためには儀式が必要であり城の地下には大きな魔法陣が刻まれていたりする。

 見た目は全身の皮膚から人の手や顔が生えた気持ち悪い造形。多分、SAN値チェックが入る。




 王都アニアから離れたとある街。そこは既に反逆者達によって占拠された街であった。


 元々は違う潜伏場所にいた彼らだが、アケニア王国にシエール皇国の勇者の聖女が入ってきたという情報を聞いて慌てて実行に移したのである。


 これが最終決戦になることは明白であり、反逆者達もここが正念場であった。


「遂にこの時が訪れた。我々は今より、人類の希望たる勇者と聖女の首を取りに行く」

「ガルード........良い奴だったんだけどな。ちょっと忠誠心に欠けるやつではあったけど、悪いやつじゃなかった」

「いや、人類に敵対している時点で悪いやつだろ?何言ってんだ」

「そういう意味で言ってるわけじゃないっての。なんだ?コミュニケーションが上手く撮れない人か?そんなんだから部下に嫌われるんだぞ」

「え........(ガチ凹み)」

「あ、ごめんうそうそ。そんな落ち込むなよ。大丈夫。みんなお前が部下思いの良い奴だって知ってるから」


 せっかくそれらしい雰囲気を作っているのに台無しなされていることに若干のいらだちを覚えながら、反逆者の長である青年は静かになるのを待つ。


 そして、静かになったあと再び話し始めた。


「俺たちのやるべきことは挟撃。周囲の貴族達を滅ぼしながら、その後俺達は王都へと向かう。戦力差は歴然。負けは許されない」

「でも、内部にいるやつは全員使い切ったぞ?良かったのか?」

「安心しろ。それでもなんとでもなるのがこの戦力差だ。個人でひっくり返すには限度がある。化け物が相手だとしても、問題ない。最後は魔王様が滅ぼしてくれるはずだ」


 こうして、反逆者たちも動き出す。


 この世界に残された、最後の希望を刈り取るために。

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