勇者vs勇者
アリイに喧嘩を打ってきたエバランス帝国の勇者パーティー。
先程以上に重々しい空気の中で、アリイとセリーヌは悪しき気配を感じたと言うエバランス帝国の聖女を警戒していた。
アリイは元の世界では魔王として恐れられていた存在。真の姿は瘴気をその身に纏い、確かに悪しき存在と言われても仕方がない見た目をしている。
しかし、今は普通の人間の姿だ。そんな状態のアリイを一目見て悪しき存在と見抜いた聖女は本物である。
ただ1つ、アリイとセリーヌが別次元の強さを有しているということを見抜けなかったことを除けば。
おそらく、能力による何かを持っているのだろう。ここで自分達が正義だということをハッキリと示さなければ、今後面倒事になる可能性はかなり高い。
(そう考えると、このタイミングで名乗ったのは正解であったな。元々1番良きタイミングで名乗ったとは思っていたが)
「悪しき存在だと?ならばここで殺しても問題ないな?」
「一応、我らは冒険者だぞ?剣を向ける相手が違うのではないか?」
「エバランス帝国の聖女、カルニーが見間違えるはずもない。彼女の目は本物なんだな」
「節穴の間違いでは無いですかね?シエール皇国の聖女と勇者を詐欺師呼ばわり来ている時点で」
静かに剣を構えるエバランス帝国の勇者。どうやら向こうは本気でアリイ達を始末する気らしい。
対するアリイとセリーヌは、特に構えることも無くただただ立っているだけであった。
「........どうした?正体を見破られて怖気付いたのか」
「フハハ。いや、構える必要などないのだよ。我が、その気になればもう貴様らを殺して終わっている」
「口だけは回るようだな。ならば殺してその口数を減らさしてやろう!!行くぞ!!みんな!!」
「はぁーい!!」
「え、マジでやんのか?やめとこうぜ。さすがにこれ以上問題を起こすのは不味い........」
「イージス神様。我らに希望の光を」
「フハハハハ!!味見と行こうか。セリーヌ、やり過ぎるなよ?」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよアリイ様。私はあのムカつく女を殴りますね。綺麗な顔を整形してあげましょう」
こうして始まってしまった、エバランス帝国の勇者パーティーとの戦い。
人類どうして争っている暇などあるはずもないのだが、人間という生き物は真に窮地に立たされなければ団結などしないのだ。
「喰らえ!!」
“どの世界に行ってもこういう人間の根本は変わらんな”アリイはそう思いながら、真っ直ぐ突き進んできた勇者の剣を人差し指と中指で挟んだ。
剣を振るった時の風がアリイの髪を揺らす。これだけで、勇者が本気でアリイを殺そうとしているのが分かるだろう。
残念ながら、この程度でアリイを殺すことは不可能だが。
「なっ........!!」
「フハハ。どうした?我を殺すのでは無いのか?」
「化け物め........!!」
さも当然のように剣を受け止められ、驚きを隠さない勇者。
彼は確かに強いが、アリイからすれば五十歩百歩もいいところ。軽く掴むだけで渾身の一撃は受け止められてしまう。
アリイはここで徹底的に心をへし折り、今後絡まれないようにしようと判断するとあえて隙だらけの勇者に攻撃を加えず1歩下がる。
そしてニヤニヤとワザと笑う。
「........貴様ァ。この俺を下に見やがって!!」
「フハハ。化けの皮がみるみる剥がれているぞ。これでは勇者の皮を被った蛮族だな。しかも、勇者という肩書きを国から与えられているからなおタチが悪い」
「死ね!!」
勇者、再び攻撃。
怒りに任せて振るわれた雑な剣。アリイは避けるでもなく受け止めるでもなく、ちょっとしたカウンターを合わせた。
剣が当たる瞬間に手刀を剣の腹に浴びせる。目に見えない神速の手刀は、見事に剣を一刀両断してしまった。
カキン!!と金属が弾ける音と共に、剣が吹き飛び地面に突き刺さる。
ちなみに、アリイは知らないがこの剣はエバランス帝国の鍛冶師たちによる傑作であり、聖剣として扱われていたとても高価で貴重な剣だったりする。
しかし、真の神による加護も持たないなまくらが、アリイを切り下げるはずもなく見るも無惨にへし折られてしまったのだ。
「........は?グッ!!」
「フハハ。脆い剣だ。なまくらでも掴まされたのか?」
次は自分の番だと言わんばかりに、アリイは勇者の首を絞めあげて持ち上げる。
しかしやりすぎると周囲で見ている冒険者達にドン引かれそうなので、程々に首を絞めながら投げ飛ばした。
「........オエッ!!ウゲェェ!!」
「あら、思っていたよりも柔らかい体ですね。軽く小突いただけで吐き出してしまいました。それに比べて、あなたは頑丈ですね。まぁ、急所はちゃんと避けてますし当たり前ですが」
「........チッ、いつかこうなるとは思ってたが、今日だとは。私もついてないな」
チラリとセリーヌの方を見ると、セリーヌは既に聖女とぶりっ子を成敗した後らしく、戦士と会話をしている。
セリーヌの少し前では、膝を着いて涙目を浮かべながら嘔吐する2人の残念な美人が居た。
抑えている場所からして、鳩尾を殴ったのだろう。
しかも、相手が吐くような勢いで。
しかし、五体満足でまだ生きているだけ優しいなと思ってしまうあたり、アリイも十分染まっていた。
「さて、勝敗は決したかと思いますが、まだやりますか?」
「降参だ。というか、私は元々やり合うつもりは無いんだよ。このバカどもが勝手に暴れだしただけだからな」
「賢明な判断ですね。それでは私達はこれにて失礼しますよ。アリイ様、行きましょう。これだけ圧倒的な力をみせつければ、私たちが本物だと思うでしょうし」
「フハハ。だろうな。シエール皇国の宣伝をするには十分だ。そろそろ我らがここにいるという宣伝をしつつ、上手く立ち回らねばならぬ時期だし丁度いい」
魔王軍との戦争における最前線では、地位によって待遇が決まることも珍しくはない。
それに支持を得られなければ、嫌がらせを受けるなんてことも有り得るだろう。
そろそろアリイ達も、政治をやる時が来たのだ。上手く立ち回り、市民たちからの信頼を得ることで戦線に出た時の待遇を変えてもらう。
出来れば、ギルドマスターの推薦状当たりが欲しいところである。
「仕事をするのか?」
「しなければなりませんね。ここら辺で推薦状やら何やらを得て、戦場でやりやすい立場を手に入れるのが目的です。最悪お金で解決しますが........」
「聖女とは思えぬ発言だな」
アリイはそう言うと、先に進んで道を開く。
多くの冒険者たちが集まっていたが、アリイの強さを見たあとでは全員が自ずと道を譲っていた。
セリーヌもそのあとに続き、そして考える。
ここに来て自分たちの身分明かしたということは、今後さらなる面倒事がやってくる。特に、つい最近まで大人しかった組織
(反逆者達についての情報を手に入れると同時に、彼らがどこに隠れているのかある程度当たりをつけておいた方が良さそうですね。さすがにここまで来たのに妨害してこないということは無いかと思われますし........もういっその事、私を囮にしておびき出してしまう方が楽かもしれません)
「セリーヌよ。昼食はどうする?」
「ボケたんですか?先程食べたでは無いですか」
「フハハ。我、ちょっと足りてなくてな。もう少し食べたいのだが........」
「もう。アリイ様は食いしん坊ですね」
セリーヌはその時が来てから考えればいいかと思うと、もう一度昼食を食べ直すのであった。
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