旅路は続く
その日。ロストンの街は掃除された。
周囲を一切気にせずセリーヌが暴れたことにより、一時は凄まじい騒ぎになってしまったもののこれを何とかしたのはあのデブヤロであった。
彼は自分が
しかも、この街の人々全員にだ。
スラムに住むもの達も、関係なし。自分の失態をハッキリと言い、その驚異も去ったということを伝え、そして誠心誠意の謝罪を見せた。
“私はまだまだ未熟で父には遠く及ばない。しかし、それでも私は父を超え、この街を豊かにしたい”。
彼が謝罪の後に放った一言は、弱音と本音であった。
今までドラ息子ダメ息子と言われ続け、宜しくない噂も流れていた彼の真面目な言葉に街の人々は困惑する。
しかし、それでも彼を支持するものは多かった。
特に、商人協会は盗賊の討伐に力を入れていくれいたこともあり、打算込みとは言えど味方をしてくれたのだ。
他にも、普段から真面目に仕事をしていることを知る者。そして、彼を密かながらに応援していたものたちも続く。
デブヤロは1度、大きな失敗を犯した。だが、この失敗はまだ取り返しが着くものである。
神はデブヤロにチャンスを与えたのだ。そして、彼は罪を償い、新たな君主をめざして進み続けることになるだろう。
「もう行ってしまわれるのですか」
「元々一日滞在するだけのつもりでしたからね。むしろ、一週間以上も拘束されたことに困っています。毎回こんなことに巻き込まれ続けていたら、身が持ちませんよ」
「フハハ。確かにそうだな。今の所、訪れた街全てで問題が起きておる。神への祈りが足りないのでは無いのか?セリーヌよ」
「祈ってどうにかなるなら祈りますよ。なんだったら足まで舐めて差し上げます。で、足まで舐めた対価が神の試練ならば、私は天界を滅ぼしますよ」
「フハハハハ!!聞いたか?これが聖女という肩書きを持っているのだから笑えるな!!堂々と神殺しの宣言をしておるぞ!!」
「あ、あはは........」
セリーヌが暴れてから2日後。ようやく混乱がおさまり始めたロストンの街の門には、セリーヌとアリイの姿があった。
元々通り過ぎるためだけの場所であったはずなのに、気がつけば一週間以上も滞在している。
金を稼いでいるならまだしも、特にやることがなく金と時間を浪費しただけ。
一応、反逆者達を討伐したとして、デブヤロから報奨金をむしり取ったがそれらは全て協力者であったスラムの者たちにあげてしまった。
スラムの者たちは自分たちの仕事を終えた時点で撤退。彼らは職人のようであった。
素晴らしく統率が取れていた彼らに領主を紹介したので、上手く行けばスラムという必要悪を手中に収めることもできるだろう。
これだけお膳立てしておけば、再び酷い事態になることは無いはずだ。
まだまだ荒削りで学ぶことも多いが、それでも真面目さと言うのはいつの日か報われる時が来る。
必ずと言えないあたり、この世界は残酷ではあるが。
「シエール皇国には
「頼みましたよ。魔王を討伐しても、帰ってくる場所が無くなってしまっていては意味が無いですからね」
「はい。お任せ下さい。聖女様に初めて与えられた仕事、完璧に遂行したいと思います」
結局、反逆者達から情報を得ることは出来なかった。
デルフ以外は魔人となり、魔人はまともに話せない。
さらにデルフは魔人にすり潰されてしまったため、誰一人として生き残ってはいないのだ。
流石のアリイも1人ぐらい捕まえられるだろうと思っていただけに、今回の失敗には顔をしかめる。
唯一の情報は契約書であるが、多くのことは未だ謎に包まれていた。
「ではそろそろ行きましょうか。もっとペースアップして行きたいものですね」
「フハハ。ではな領主よ。真面目に、そして元気にやるのだぞ。品行方正に生きればそれだけ人は着いてくるものだ。楽な道を選ぶなとは言わぬが、時には困難に立ち向かうといい」
「はい。本当にありがとうございました。聖女様勇者様。おふたりの英雄譚が聞ける日を、楽しみにしておきます」
「楽しみにしなくていいんですけどね」
「フハハハハ!!きっと、聖女とは思えない素晴らしい話が聞けるだろうよ!!」
こうして、セリーヌとアリイはロストンの町を後にする。
滞在期間約10日。短いようで長かった期間を終えて、再び旅へと戻るのだ。
「まさか、こんなに時間が取られるとは思っていませんでした。今度から、街によるのは極力避けましょう。なんというか、また面倒事に巻き込まれそうな気がします。これなら野宿していた方がマシですよ」
「フハハ。困っている人々を助けなければならないのではないか?」
「今の私の仕事は、魔王の討伐が最優先ですよ。補給などを考えて街へ寄り道を考えていましたが、極力減らしましょう。本当に体に悪いです」
「ふむ。それは残念だな。我は多くの町を見てみたいのだが........」
「人類を滅ぼそうとしていた魔王が何を言っているのですか。滅ぼした後にでも見てください。その時は、1人残らず確実に殺してくださいね。私の名前に傷が着きますので」
「フハハ。相変わらずだなセリーヌよ。まぁ、良い。こうして知らぬ世界を歩くだけでも、我は結構楽しいからな」
こうして、魔王と聖女の旅路は続く。大きく旅の計画を変えた為、次に訪れる街がどこになるのかは分からないがそれでも二人の歩みが止まることは無いだろう。
魔王がいる最前線。そこへ向かって、彼らは世界を救うのだ。
【魔人】
魔王の血を摂取した人間。注射器で血管に打ち込むのが一般的であり、絶大な力を手に入れる代わりに知能を失う。
皮膚は真っ赤に染まり、さらに力は倍以上に跳ね上がる。その代わり制御が効かず、時間経過で死亡する。
魔王の血が余りにも強大過ぎる為、人間の体では耐えられないのだ。
「あんのバカが。これだから肥大化した組織の管理は面倒なんだよ」
反逆者たちが集まるとある場所に立てられたとある拠点の中で、トップを務める青年は報告を聞いて頭を抱えた。
あれほどシエール皇国の聖女と勇者に手を出すなと警告したにも関わらず、その警告を聞かずに魔人という情報を流してしまったバカのお陰である。
魔人は最後の計画で一斉に使うはずであった。
魔王の血は強大で、人々を狂わせる。それを使い、世界各地で襲撃を起こす算段であった。
しかし、ここに来て魔人の情報が漏れてしまう。これはかなりの損失である。
「あぁ、クソ!!だから先に血を運び込む計画には反対していたんだ!!こういう事が起きるから!!でも、この組織は別に俺が偉いわけじゃないから、多数決で決まっちまう!!バカしかいないのかこの組織はァ!!」
「まぁまぁ落ち着けって。俺はお前の案に票を入れてたぞ。同じことを思ってたからな」
「あの時はありがと。お前、頭悪そうな肉体と見た目をしてるのに、結構頭いいよな」
「あれ?俺今慰めようとしたのに殴られたぞ?酷くね?俺の優しさ返してよ」
「無理ですー。俺は貰ったものは返さない主義なので。んで、これからどうするべきかね........」
「暫く大人しくさせるように再三言い聞かせるしかないな。もし、言うことを聞かなかったら殺すぐらい言っていいと思うぜ」
「やっぱそうするしかないか........あぁ、だるい」
青年はそう言うと、キリキリと痛む胃を擦りながら手紙を書き始めるのであった。
後書き。
これにてこの章はおしまいです。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。
セリーヌちゃん、ヒロインっぽくなってきた。可愛い。
次はちょっと時が進みます。そんな毎回面倒事に巻き込まれるわけがないからね。
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