血濡れた庭
セリーヌに恐怖し、逃げ出そうとした魔人達はアリイの眷属達によって囚われた。
足を失い、腕すらも食いちぎられた魔人達は、そこら辺の草木に寄生する芋虫にすら劣る。
出血のショックにより死んでしまったものもかなりの数いたが、それでも十二名の捕虜を確保することに成功した。
「全く。好き勝手にやりすぎだぞセリーヌよ。見よ、あの領主の目を。先程と同じように救いを求めた健気な頑張り屋とは思えない、怪物を見る目だ」
「失礼しちゃいますね。私が怪物ならば、この目の前に転がる魔人はなんだと言うのですか?地獄の番人ですか?悪魔ですか?」
「フハハ。まだそっちの方が可愛いだろうな。少なくとも
「もー!!アリイ様!!その話はしないでくださいよー!!」
セリーヌの2つ名をいじるアリイと、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながらポカポカとアリイを叩くセリーヌ。
この光景だけ見れば、実に微笑ましい1面となるだろう。
その足元に転がった死体の山と血塗れた庭に目を背ければ。
「それにしても、魔人か........
「魔王の血を人間の体内に取り込むことで、強大な力を得る。代償は人間性の喪失ですかね?これの厄介な点は、そこら辺の子供に投与したとしても、それなりの戦力となってしまうことです。制御がで切るかは知りませんが、少なくとも無差別に使われれば世界が崩壊してしまう恐れすらあります」
「フハハ。魔王軍も中々にえげつないことを考える。我ですらそのようなことはしなかったぞ?いや、そもそも、我の血など取り入れても変化は無いからな」
反逆者たちが使った魔王の血。
魔人と呼ばれる人間とは異なった新たな種族を生み出すそれは、人類にとってとてつもない驚異となり得るのは間違いない。
魔王の血を取り入れると言う条件がどれほどのものなのかハッキリとはしないが、少なくともこんな辺鄙な街にすら普及できるだけの量産力を持っており、尚且つ反逆者全員がこらだけの力を手にすることが出来ると考えれば、人類との戦力差はかなりのものとなる可能性が高いだろう。
そこら辺の村人を捕まえて強引に血を接種させるだけで、人を殺し回る化け物の完成だ。
これを戦時中にいきなり使われて暴走されれば、戦線はあっという間に崩れてしまう。
「もしかすると、魔王軍よりも魔人の方が厄介かもしれませんね。何時でもどこでもこの血は私たちを蝕みに来ますよ」
「我とセリーヌは血に抗えるだろうが、普通の人間は変わってしまうだろうな。そして何よりも面倒なのがこれを治す術が無いと言うことだ」
(私が治療しないのを見て、直せないと判断したのですね。相変わらずの洞察力です )
セリーヌが治療する素振りを見せなかったことから、サラッとこの血の最も厄介な点を言い当てるアリイ。
現状、魔人となった者を人間に戻す術は存在していない。
いくら呪いや解毒に優れたセリーヌがいたとしても、血液に混ざった異物だけを排除するのは難しい。
それこそ、血を全て抜きとる必要すら出てくるだろう。
そんなことをすれば、もちろん人は死ぬが。
「ぐ、ぐが........」
魔人について語っていると、捕縛されたひとりがゆっくりと息絶える。
自力で戻ってくれることも期待していたが、やはり魔人の影響はかなり深く彼らは深淵の中で息を引き取った。
捕虜に取った12人。全員死亡。
これにより、ロストンの街に蔓延っていた反逆者の全員が死亡。魔王に組みした人間達の末路は、人をやめ新たな種族へと生まれ変わりその魂の形すら変えて死してしまう。
セリーヌは、そんな者達に捧げる祈りは無いと言わんばかりに死体を蹴り飛ばした。
「チッ、少しでも情報を吐いて欲しかったのですけどね。役に立たない魔人ですよ」
「元は人間だというのに、扱いが酷いな........」
「もしも彼らが望まずして魔人となってしまったのであれば祈りを捧げ、安らかな眠りが訪れるようにしますよ。ですが、彼らは自ら望んで死を選び、あまつさえこの世界に混沌をもたらそうとした魔人です。いいですか?魔人なのですよアリイ様」
「つまり、人ではないと?」
「これが人に見えますか?ましてや、人のみでありながら人ならざる行為をしていたもの達が」
アリイは言うてセリーヌも似たようなものなのではとは思いつつも、セリーヌは罪の無い人を快楽や欲のために殺している訳では無いと思い直し口を噤む。
少なくとも、こので死体となった者達よりはマシである。
セリーヌは、本当に困り果てた人や弱っている人がいるのであれば手を差し伸べるだけの優しさは持っているのだ。
ただ、聖女という立場でありながらその思想や品性がかなり怪しいだけである。
(うむ。大きな欠点ではあるが.......まぁ、まだマシか)
アリイはそう判断すると、お疲れ様という意味を込めてセリーヌの頭を優しく撫でた。
やり方は随分と過激であったし、正直な話もっといい方法がいくらでもあったはず。しかし、自分の手でしっかりと決着をつけ、こうして良き方向に全てを終わらせたのは事実。
評価するべき点はしっかりと評価し、褒めてやらねば人は成長しない。
アリイはそんな魔王の頃のくせが抜けず、思わず手を伸ばして優しく頭を撫でてしまったのだ。
「........?アリイ様?」
「む?あぁ、すまぬ。つい癖がな。どうな経緯であれ、セリーヌはしっかりと役割を果たした。その労いのつもりではあったのだが、不愉快であったか?」
「........いえ。別に不愉快ではありませんよ。ただ────」
「ただ?」
「───ただ、今まであまりこうして頭を撫でられたことがなかったので、少し驚いているだけです。もう少しだけ撫でてください」
それは、セリーヌなりの甘えだった。
スラム街で生まれ、聖女となってからも常に褒められることはなく自分の責務に向き合ってきたセリーヌ。
親の愛を知らず、厳しい教育の中でセリーヌはどんな甘え方をすればいいのかなど分かるわけが無い。
しかし、欲しいものは欲しいと言うべきだと言うことは知っている。
“もう少しだけ撫でて欲しい”。
その一言は、セリーヌの少女らしい心を表していた。
まさかそんなことを言われるとは思ってなかったアリイは、一瞬本当にこの少女はあのセリーヌかと疑ってしまうが、セリーヌは意外と年齢相応の可愛い一面を見せることもあるのだ。
こういう日だってきっとある。
アリイはそれ以上は何も言わず、セリーヌの言う通りもう少しだけ頭を撫でてやることにした。
「んッ........アリイ様の手は大きいですね」
「フハハ。そうか?セリーヌの頭が小さいだけな気もするがな。以前の世界には、我よりもでかいヤツがごまんといたぞ。我を掌の上に乗せてぶん投げるようなどデカいやつがな」
「........全然想像ができません」
「タイタンと呼ばれる種族で、魔族の中でも一際珍しい種族であった。一時期、人間に責めいられていた時に同盟を結んでな。その際の遊びで、高い高いをしてもらったのだよ。まぁ、吹っ飛ばされてすぎて他界他界になりそうであったがな!!フハハハハ!!」
「ふ、ふふっあはは!!なんですかそれは!!高いと他界をかけているのですか?全然上手くありませんよ!!」
口ではそう言いつつも、下らないギャグに思わず笑ってしまうセリーヌ。
こうして、ロストンの街で起きていた
この事実は反逆者たちの中で大きな問題となり、しばらくの間は身を隠させることを徹底させることになる。
それが吉と出るか、凶と出るかは未来が示すだろう。
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