判決
領主の館に襲撃をしかけたセリーヌは、事前に手に入れていた情報を元にデブヤロの元へと走っていく。
おそらく彼は、完全なる被害者だ。
知らずして反逆者と手を組んでしまったのは確かに裁かれるべき事柄ではあるが、彼は昔と違い心を入れ替えたのである。
彼を説得出来れば、大々的に
セリーヌは好き勝手暴れるためにもデブヤロの確保を優先した。
そして、デブヤロが眠る部屋へと辿り着く。
「起きていますか?デブヤロ様」
「........朝から凄まじい音が聞こえたかと思えば、こんな少女が襲撃者とは。ん?その顔、どこかで........」
「あら、覚えていたのですね。シエール皇国聖女セリーヌですよ。お久しぶりです」
デブヤロはその言葉を聞いて、驚きを隠せずにいた。
かつて見たあの少女が、それなりの月日を経てもまるで変わってないことに。
人とはここまで成長しない生き物なのか(見た目が)と、デブヤロは生命の神秘を目の当たりにする。
「シエール皇国の聖女にご挨拶を。して、なぜこのような事を?あなたの噂は数多くあれど、このような不当な襲撃をするようなお方とは思えないのですが........」
「心当たりが無いのですか?」
「私は確かに父には劣るが、父に顔向けできない政治をした覚えなはい。いつの日か父を超え、国王にすらなって見せようと心に誓ったのだから」
そういうデブヤロの言葉に嘘はなかった。
彼は本当に、味方につけた人間を間違えただけなのだろう。彼は彼なりに努力し、地道ながらも大きな目標を持って歩み始めていたのだ。
その隣にいるのが、反逆者とはなんとも言えない。
セリーヌは、少しばかりデブヤロを可哀想に思う。
「
「........?なんだそれは」
「魔王軍に味方し、我々同族たる人間を殺す人類の敵です。やはり知らないのですね」
セリーヌはそう言うと、コンと鎌の柄を地面に置きデブヤロに全てを説明した。
証拠がないため全てが憶測でしかないが、その事実はデブヤロを混乱させる。
「────つまり、彼女達が私の父を殺したと?」
「証拠がないのでなんとも言えませんが、少なくとも調べた限りではそう結論が出ています。税金の横領やそのほかの指示書などが見つかれば、この情報も信憑性が増すかと思われますよ」
「それは、既に証拠が手元にあるということでいいのか?」
「もう暫くお待ちを。私のお仲間がそれを持ってきてくれることでしょう」
相手が裏切らないように契約書を書くのがこの世界の常識。特に情報が漏れると困る後暗い組織は、このような事をよく行う傾向にある。
そして、それは証拠となって出てくる。今頃、アリイやスラムの人間たちがこの騒ぎに紛れて証拠を集めていることだろう。
特に、アリイに関してはもっと重要な何かを持ってくるのではないかと期待している。
それこそ、何一つ言い訳できないようなものを。
「領主様!!ご無事ですか?!」
と、ここで一人の女が多くの私兵を連れてやってきた。
セリーヌはようやく来たかと溜息を付き、デブヤロはどうしたらいいのか分からず戸惑っている。
「ようやく来ましたか。この街の
「何を言っているのかしら?この襲撃者は。領主様を殺しその権力を我が者にしようだなんて、考えがよく浮かぶわね」
「貴方ほどではありませんよ。あなたの魂、すごく濁って汚いです。アリイ様と比べるのも失礼なくらいに」
「何を........!!やつを捕らえなさい!!領主様にこれ以上近づけさせてはダメよ!!」
「真実を告げられるからですか?耳の塞ぎ方がお上手なようで」
「うるさい!!」
デルフの指示により、セリーヌを捕まえようとする反逆者達。
しかし、彼らはセリーヌがどれほど規格外なのか何も分かっていなかった。
セリーヌはその小さな身体で丸々と太ったデブヤロの襟を掴むと、デブヤロ事窓を割って外へ出ていく。
「待ちなさい!!」
「そう言われて待つバカがどこにいるんですか」
「ちょ、うわぁぁぁぁぁ?!」
情けない声を上げながら屋上まで連れていかれるデブヤロ。
セリーヌはそんな情けない領主を屋上に置くと、アリイが来るのを待つ。
もう少しすれば、証拠を集めてきてくれるはず。こちらが正義となれば、なんの躊躇いもなく暴れられるというものだ。
「大丈夫ですか?」
「........ゴホッ!!ゴホッ!!君は無茶苦茶すぎる。本当に聖女なのか?」
「聖女ですよ。一応ね」
「なぜシエール皇国が君を聖女に選んだのか、まるで理解できない。もし彼女がその反逆者だとして、もっとやり方はあっただろう?」
「私達に殺人の冤罪をかけ、捕らえようとしたのにですか?」
「........なんだと?」
どうやら、デブヤロは本当に何も知らないらしい。
セリーヌは小さく肩を竦めると簡単な経緯を説明する。
「1週間ほど前から、街を封鎖しましたよね?」
「あぁ、殺人事件が起きたという話だったからな。犯人を逃さず捕まえるべきだと言われた」
「その犯人が、私達となっていたという訳です。あなたも先程仰ったとおり、私は罪なき人々を殺すようなことは決してしません。他者を殺し、全てを奪い去るような者が相手なら別ですがね」
「今のこの行動を見て、そうだねと言えるほど私も愚かでは無いのだがな」
領主の館に襲撃をしかけている時点で、確かにセリーヌの言葉に説得力はない。
セリーヌもそれは自覚していたので、サラッと流した。
「そうですか?ですが、知らなかったのでしょう?私達に冤罪をかけていたことなど」
「冤罪かどうかはともかく、君が犯人となっていたのは知らなかった」
「では、彼女達は私を聖女と知っていたのでしょうか?彼らは私達のことを冒険者と呼びましたが........どうも知っていそうなんですよね。だって真面目に私のことを調べれば、ほぼ宿にいた事が明らかですから。女将さんの話を聞かずして、私を犯人だと決めつけるのは少々おかしくないですか?」
「君が嘘をついてなければ、おかしいだろうな」
「あの、先程から全く私の話を信用してませんよね?少しは真面目に聞いて欲しいんですけど」
「フハハハハ!!それは無理だろうよ!!何せ、これ程までに派手にやらかしているのだからな!!」
と、ここでセリーヌの後ろから聞きなれた笑い声が響く。
セリーヌか振り返ると、そこにはひとつの紙束を持ったアリイが居た。
「どうでしたか?」
「向こうは功を焦ったな。下手に動いたおかげで、居場所を全てバラしていたぞ。あとはちょいと捕まえて話し合えば、この通り。面白いほど情報が出てきたわ」
アリイはそう言うと、セリーヌに紙束を渡す。
紙束を受け取ったセリーヌは、ペラペラとその中身を見ていくがどれもこれもが不正や口止めの書類ばかりであった。
中には、計画書なんかも混ざっている。
しかも、そのほとんどの書類にはデルフのサイン。役満を通り越して、トリプル役満だ。
「デブヤロ様。これを見てもなお、彼女達が味方だと言うのですか?」
「........これは........これは.......!!」
ここでようやく、デブヤロは自分がいかに愚かなのかを悟った。
親の仇を自分の側近として重用していただけてはなく、更には数多くの問題を引き起こしていたのに無視をしてしまっていた。
「デブヤロ様。判決を」
「........聖女様。このどうしようもない馬鹿に、救いを与えてください。いや、私のせいで苦しんでしまった民のために、その鎌を振りおりしてください」
「はい。その願い聞き入れましょう」
大義名分を得たセリーヌの顔は、聖母のようでありながらどこか仮面を被っているようにも見えた。
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