聖女のやり口


 ブチ切れてしまったセリーヌを見て、若干引き気味のアリイ。


 セリーヌを怒らせるのは本当に辞めた方がいい。元よりそのことは分かっていたが、更に強く心にそのことを刻み込む。


 アリイがセリーヌに冤罪を掛けることは無いので問題ないが、何が怒りのトリガーとなるのかは分からないのだ。


 少なくとも、身長の事だけは弄らないでおこう。そう、強く誓った。


「スラム街か。フハハ。定番の逃げ場所だな」

「スラム街には数多くの人が集まります。その殆どは貧しくその日を生きるのも苦しい人々ですが、こういう時は私達の味方となりますよ。彼らには独自のコミュニティがあり、権力者を極端に嫌いますから。事実、私がそうでした。聖女として選ばれた時もかなり暴れたものです」


 セリーヌが暴れたとなればそのスラムは既に崩壊しているのでは?アリイはそんなことを思いながら、ロストンのスラム街を歩いていく。


 古びた家が並び、そこにはボロボロの服を着た人が多い。


 そして、アリイやセリーヌ達を見て獲物が来たと思っている。


 綺麗な服を来ているだけで、彼らは自分よりも優雅な生活を送る者だと決めつける。


 彼らは狙っているのだ。セリーヌやアリイの財宝を。


「シエール皇国のスラムはどこか余裕があったが、ここはそうでもなさそうだな」

「でしょうね。アルバ様の頃からスラム街はあまり良い場所とは言えませんでしたから。良き君主が尽力しても、限界があるのは仕方がないことですよ。それと、今は領主が変わっていますからね」

「補助を打ち切られたと考えるべきか。それで、セリーヌは何故ここに?」

「スラム街はその特徴から身を隠しやすい場所です。この世界には身を隠したがる人が多いでしょう?」


 ハッキリとは口にしないが、要は買取屋のリカルドのようなアンダーグラウンドに生きる人々をセリーヌは探しているらしい。


 しかし、彼らはよそ者に対して厳しい態度をとる。


 以前のように何かしらの繋がりがあるならばまだしも、なんの繋がりもないこの場所で簡単に姿を見せてくれるとは思えなかった。


(どうするつもりなのだ?)


 アリイはそう思いながらも、一旦口出しはしない。


 セリーヌにはセリーヌのやり方があるはずだ。冤罪事件撲滅のために尽力した聖女が、何も考えていないはずがない。


「少し冷静になれたので考えたのですが、恐らく裏で糸を引くものがいるはずです。あの豚は確かに馬鹿でクズでどうしようもない人間の形をした生ゴミですが、頭が無いわけじゃありません。私と会いたければ、捕まえずとも普通に使者を送るだけで良いのです」

「酷い言われようだな........しかし、我も同じ考えだ。恐らく、領主の裏に何者かがいる」

「スラム街の主ならそれでよし。もし違うなら彼らは何かを知っていると思います。こう言う暗躍するもの達にとって、使い捨ての駒は都合がいいですからね。その影がどこかにあるはずです」


 セリーヌはそう言うと、足を止める。


 つられてアリイも足を止めると、明らかに自分たちを餌として捉えようとしている3人の男達が道を阻んでいた。


「ゲヘヘ。おい、死にたくなきゃ有り金全部とその女を置いていきな」

「ヒッヒッヒ。久々の上物だぜ。ガキなのがちょっと勿体ないが、その体ならいくらでも楽しめるだろうよ」

「その身ぐるみを全部置いていくんだな!!」


 それは、あまりにも分かりやすい悪役であった。


 むしろここまでコテコテだと、感心すら覚える。


 ガキと言われたセリーヌは不機嫌そうであったが、アリイは自分の求めていた者が見れてとても楽しそうであった。


「フハハハハ!!ここまで定番な奴もそうはいない。このスラム街は中々に見所があるな!!」

「何を感心しているのですかアリイ様。しかし、これで探す手間が省けましたね。こう言うクズ相手だと、心置き無くやれるから楽ですよ」

「あ?なんだこいつら、頭でも狂ったのか?」

「何を笑ってんだこの野郎!!このナイフが見えねぇのか!!」


 竜すら屠る異界の魔王と、何千もの魔物を相手に笑うイカれた聖女にそんな脅しが効くはずもない。


 彼らは獲物を間違えたのだ。


 猛獣に牙を向ける、蛮勇な子ウサギですらこのようなことをしない程には。


「縄の用意をお願いします」

「了解した」


 セリーヌはそう言うと、三人の目には止まらない速さで接近し殺さない程度の攻撃を加える。


 一人は腹に拳を叩き込み、もう一人は軽く顎を弾いて気絶させ、最後の一人は両足をへし折った。


 セリーヌをガキ呼ばわりし、ゲスな目で見ていた一人だけがかなり重症を負ったが自業自得と言えるだろう。


(あぁ。身長をバカにしなければ、まだ腹を殴られる程度で済んだというのに)


 アリイは少しばかり足を折られた者を哀れに思いながら、動けない三人を拘束していく。


「場所を変えましょう。スラム街は空き家がいくつもありますからね。適当な家に入っても誰も文句は言いません」

「フハハ。聖女が空き巣か?相変わらずセリーヌは聖女らしからぬ行動をするな」

「それが私ですから。二人を運んで貰えますか?一人は私が運びます」

「3人運べるので問題ない。仮にも偉大なる聖女に荷物持ちはさせれぬだろう?」

「バカにしてますよね?それ」

「フハハ。してる」


 素直にセリーヌをバカにしたと言い放つアリイは、男を三人担ぎあげると場所を移動した。


 セリーヌの言う通り、スラム街にある建物の多くは空き家となっており、家を探すのには苦労しない。


 風は入ってくるし、雨漏りもしてくるような家で、家としての機能を成してないとは言え今はこれで十分だ。


「では下ろしてくださいアリイ様」

「ふむ。ここでいいか?」


 アリイはセリーヌの指示に従い、男達を下ろす。


 そして、容赦のないセリーヌの尋問が始まった。


 未だに痛みが残る男の一人の髪を掴みあげると、とてつもなく冷たい声で静かに尋問する。


 その声は、アリイですら背筋が凍るほどであった。


「このスラム街で最も大きな勢力は誰ですか?」

「い、言うと思うのか?」

「別に言わなくともいいですよ。まだ二人残ってますからね」


 ガン!!


 セリーヌはそう言いながら、床に思いっきり男の頭を打ち付ける。


 ちゃんと怪我はしないように額を叩きつけている辺り、この手の尋問はて慣れているのが分かった。


「っぐ........」

「もう一度聞きます。次はないと思いなさい。このスラム街で最も大きな組織は?」

「ゼ、ゼルストだ。このスラム街をとりまとめる奴がいる........」

「そうですか。ではその方の場所は?」

「し、知らねぇ──────ゴッ!!」


 再び頭を打ち付けられる男。ちなみに、彼は足を折られた男である。


 セリーヌの前で嘘は通じない。嘘を看破する魔法を持っているから。


「神の前で嘘をつくとは感心しませんね。もういいです。貴方はここで朽ち果てなさい」


 セリーヌはそう言うと、男の首を小さな手鷲掴みにする。


 本気で殺す気だ。


 拷問や尋問のやり方には色々とあるが、最も効果的なのは恐怖を刻み込むこと。


 セリーヌは、1人を見せしめとして殺すことで残りの2人に恐怖を刻みこもうとしているのだ。


「や、やめ........」

「貴方、血の匂いが濃いですね。何名もの人を殺してきたのでしょう。その時、彼らの叫びを聞き入れたのですか?まさか、自分の番になって聞き入れてもらえるだなんて都合のいい頭をしてはいませんよね?」


 ボキッ。


 首が折れた音が部屋に響き渡る。


 一切の慈悲もなく、セリーヌは男の首をへし折って殺してしまった。


(間違ったやり方では無いが、手慣れすぎてないか?普通に怖いわ。まだ15の少女がする顔ではないぞ)


 アリイはその様子を止めることは無かったが、あまりにも手慣れすぎているセリーヌに軽い恐怖を覚えるのであった。






 後書き。

 当たり前のように拷問し、なんの躊躇いもなく人を殺す聖女。...聖女???

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