仕組まれた冤罪


 暇をさらに持て余すこと二日後。


 アリイとセリーヌは本当にやることがなくて暇を持て余していた。


 とは言えど、アリイが碁を覚えた事により多少の暇つぶしにはなる。


 碁の一局は長、下手をすれば一度戦うだけで2~3時間潰れてしまう。


 その分頭を凄まじく使うので、対局が終わったあとの疲労感は大きいが。


「........む、また我の負けだな」

「1週間そこらで負けてしまっては私の立つ瀬がありませんよ。流石にまだ負けません」

「ふむ。友と一緒にあれこれ考えたのだがな。経験の差が大きすぎて、ハンデを貰っても勝てぬ。この遊戯は難しいなぁ?」

「ゴフー」


 アリイはまたしても敗北してしまった事を悲しみながら、サメの背中を優しく擦る。


 最近よく呼び出されては構ってくれる主人に、サメはとても嬉しそうであった。


「ふふっ、例え二人でも単純計算で力が2倍となるわけじゃありませんからね」

「ゴフー!!」


 そして、セリーヌもアリイに出してもらったサメの背中を撫でる。


 主人に撫でて貰えないのは少し残念だが、自分を可愛がってくれる珍しい人間にサメは普通に甘えていた。


 サメからすれば、構ってもらえるだけで嬉しいのだ。


 彼らは前の世界では恐怖の象徴。アリイ以外に触れ合う人もいなかったのだがら、こうしてセリーヌに撫でられるのは結構好きな部類である。


 それでも主人であるアリイには敵わないが、それは仕方がない事だ。


「フフフッ、本当にアリイ様のご友人は可愛いですね。異界の地では恐怖の象徴と恐れられていたのが残念ですよ。私もこう言う友達が欲しいなぁ........」

「フハハ。我がいる時は出してやろう。この子達もセリーヌの事は随分と気に入ってるらしいしな。基本的には人懐っこいが、やはり好みは存在する。この子達と遊べるだけでも結構すごいのだぞ?気に食わないと噛み殺しにくるからな」

「そんな事をしているから、恐怖の象徴と呼ばれてしまうのでは?」

「まぁそうだな。だが、我も止める気は無いしな。友が不愉快で食い殺したいと思うのであればそうすればいい。間違った選択の時は止めるが、基本的にはそうなるよなと思うしな」


 パタパタと嬉しそうにヒレを動かすサメのヒレを握ったり、お腹を撫でてやるアリイはそう言うと昔を思い出したのか嫌そうな顔をする。


 セリーヌは何となくアリイがこの話は聞いてほしそうなのだろうと感じ取ると、話を振った。


「具体的にはどのような事なのですか?」

「分かりやすいのだと、単純な暴力だな。恐れるのは仕方がない。が、殴る蹴るは誰だって怒るだろう?我の友はその見た目と雰囲気から暴力を受けることが多かったのだ」

「........そりゃ、食べられますよ。馬鹿なんですか?その魔族は」

「馬鹿だったのだろうな。我がこの子達を遊ばせるための池を作った時、勝手に忍び込んで暴力を振るったのだから自業自得だ。と言うか、我もその場にいたら殺していたぞ。友を傷つけるやつは許さん」


 じわりとアリイさら殺気が漏れる。


 幼少期のアリイの話を聞くに、アリイは随分と孤独な子供時代を過ごしてきたはず。


 そんな子供の頃から仲良くしていた友人を傷つけられたとなれば、迷いなくこの王は剣を振るって首を飛ばすだろう。


 むしろ、それが当たり前だと思う。


 セリーヌも同じ立場なら、迷いなく鎌を振り下ろすのだから。


「ゴフー!!」

「フハハ。すまぬすまぬ。ほれ、抱きしめてやるから許してくれ」

「ゴフ〜!!」


 僅かに漏れだした殺気が嫌だったのか、アリイに遊ばれるサメはバシバシとヒレをアリイに叩きつけて不服そうな顔をする。


 セリーヌはなんと器用で表情豊かなサメなんだと思いつつ、自分の膝の上に乗ったサメを見た。


「ゴフー?」

「貴方も抱きしめられたいですか?」

「ゴフー!!」


 もちろんと言わんばかりに、ヒレを器用に使ってセリーヌに抱きつくサメ。


 少しばかり重たいそのからだをセリーヌは笑いながら受け止めると、純粋な笑みでサメを抱き返した。


 宿の一室でサメとハグを交わす聖女と魔王。


 この光景をもし何も知らないものが見たら、恐怖するだろう。


 色んな意味で。


 そんな微笑ましい(?)光景が繰り広げられる中、嵐は突如としてやってくる。


 ドタバタと急に下の階が騒がしくなり、アリイとセリーヌはこちらに近づいてくる幾つもの気配を感じ取った。


「何かあったのか?」

「ずいぶんと下の階が騒がしいですね........アリイ様。名残惜しいですがこの子達を返して上げてください。もしかすると、部屋を開けられる可能性があります」

「ふむ。確かにそうだな。すまぬ友よ。急用だ。悪いが、また後で遊ぶとしよう」

「「ゴフー!!」」


 セリーヌの助言を素直に聞き入れ、アリイは2体のサメを帰還させる。


 そして、少しばかり寂しそうなセリーヌの顔を見て心の中でほくそ笑んだ。


(フハハハハ!!我の計画、順調也!!こうして徐々に友に慣れさせて、可愛さを布教してやるぞ!!)


 結構ノリノリなアリイ。


 その後、碁石を片付けてもう一局打とうとしていると、二階に上がってくる足音が聞こえる。


 かなりの数だ。


 セリーヌとアリイも流石にこの足音には首を傾げてしまう。


「今この宿は満室でしたよね?」

「そう聞いているな。この宿の店主も、不謹慎ながら稼ぎ時と言っていたぞ」

「本当に不謹慎ですねそれは........」


 あまりにもぶっちゃけ過ぎている店主の言葉に呆れるセリーヌだったが、その呆れ顔は驚きに変わる。


 なんと、その足音がこの部屋の前で止まるとバン!!と勢いよく扉が開かれたのだ。


セリーヌとアリイだな?貴様らには殺人の容疑がかけられている。今すぐに連行させてもらうぞ」

「........は?何を言っているのですか?」

「ふむ」


 急すぎる展開に表情が固まるセリーヌと、何かを考える仕草をするアリイ。


 アリイは分かっていた。長年こう言うやり口を見てきたし、時として自分も使ったことがあるから直ぐに何が起きたのかを察した。


(なるほど。あの死体が仕込みだったのかは定かでは無いが、どうやら我らの正体を知っている者が動いたな?兵士を動員できると言うことは、おそらくは領主が動いたのだろう。もしくは........その裏に誰かいるかもしれんな)


 その通りである。


 これは仕組まれた冤罪であり、領主の裏にいる反逆者達が動いているのだ。


 アリイはあまりにも鋭すぎた。


 冤罪を使って強引な拘束、そして誰の目も届かないところで相手を始末する。


 魔王国でも見られた後継であり、アリイも仕方がなく使った手である。


 今回とアリイがやったことの違いは、その冤罪の主が悪かどうか。


 なかなか証拠を残さない悪人を捌くために冤罪を利用したアリイに対して、今回は明らかな私欲の為に冤罪を使っている。


 権力者とはどうしてこうも愚かなのか。アリイは小さくため息を着くと、未だに状況が飲み込めていないセリーヌの頭を優しく撫でる。


「何かの間違いではないか?」

「しらばっくれても無駄だぞ殺人者め。証拠は出てきているし、目撃者もいるんだ」


(アホか。我がやるならそもそも死体なんぞ残さんわ)


 アリイはそう思いながらも、ここで暴れたり下手に抵抗したりすると面倒事になると理解し大人しく捕まる選択をする。


 領主が犯人なのか、それともさらにその裏に何者かが隠れているのか。


 それを確かめるためにも、今は大人しくするべきである。


「セリーヌよ。きっと話し合えば分かってくれるはずだ。大人しくしておくとしよう」

「........」


 アリイはそう言うと、何も言わないセリーヌに少しばかり恐怖を感じたのであった。





 後書き。

 次回。ヤベー奴がヤバくなる。

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