ロストンの街へ
その日は街全体が勝利の美酒に酔いしてれいた。
アリイとセリーヌの2人で問題を解決したとしても、ヒークルの街が勝利した事には違いない。
セリーヌを主役とした祝いが冒険者ギルドで起こり、その日は皆が飲んで遊び呆けていた。
もちろん、彼らの中には仲間が友人が死んで悲しむ者もいる。しかし、この世界ではごく普通の常識的な光景なのだ。
悲しみはするが、その悲しみを翌日まで持ち越すことは滅多にない。
セリーヌは担ぎ上げられ、何とかアリイにその役を譲ろうとするもアリイもこの手の立ち回りは弁えている。
祝いの席の中で行われた、主役の押しつけあいはアリイに軍配が上がった。
その日の夜セリーヌの機嫌が若干悪くなり、アリイも焦ったが。
そして2日後の早朝。特に酒を飲むこともなかった2人はこの街からサッサとおさらばしようと言う事で、早めに起きて街を出ようとしていた。
本当ならば翌日に街を出たがったが、街の外には多くの魔物の死体が転がっている。
今後の安全のためにも、これらの死体は撤去しなくてはならない。
そして、ここでセリーヌ達が消えてしまうと後味が悪い。
結局、セリーヌとアリイは魔物の死体処理を手伝うこととなった。
尚、ここでもボーンドラゴンを粉々に粉砕したことがセリーヌにバレ、アリイはセリーヌの怒られる。
セリーヌは買取のことも考えて素材となる場所は一切傷つけずに魔物を殺していたが、アリイは何も考えずにボーンドラゴンを粉砕してしまったのだ。
ボーンドラゴンの骨は高価で取引されている。それを全て無駄にしてしまったのだがら怒られるのも当然と言えるだろう。相手がセリーヌならば尚更。
そして祝いの席が用意されてから2日後。ようやくセリーヌたアリイは次なる旅に出ることとなったのであった。
「精算が早くて助かりましたね。ギルドマスターもかなり無理をしてくれたみたいでした」
「フハハ。セリーヌから“早く次の街に行きたい”というオーラを感じたのだろうな。この街を離れたがっていたのは明らかだし、ギルドマスターなりの感謝の表れだろう。あの者も大変だな」
「えぇ。全くです。ギルドマスター言っていましたよ。今回のモンスタースタンピードに関しても責任追及が来ると。彼はかなり上手くやっていたと思いますがね」
「政治とはそういうものなのだよ。まぁ、今回でその席が変わることは無いと思うがな。大きな被害と言えば、冒険者が十数名無くなった程度。腹芸が苦手とはいえど、上手く責任から逃れられるだろう。今回に関しては責任を問うこと自体が間違いだとは思うがな」
被害が出てしまった以上、ギルドマスターには何らかの責任追及が来るだろう。
冒険者十数名の死は、それだけで攻撃材料となってしまうのだ。
流石に、ギルドマスターの席が変わることは無いが、しばらくの間はその席を狙う者との小競り合いが続く。上に立つと言うことは、そういうことなのである。
「お、やっぱり早朝に来たな。だから言っただろう?聖女様達は何も言わずに去るって」
「ルーベルトの言う通りになった........どうしちゃったのルーベルト。あの日から別人みたいに頭が回るわね」
「俺だってやれば出来るんだよ。失礼だな」
そんなことを話しながら街の門を目指していると、アリイ達を待っていたのかルーベルトとカナンが現れる。
ルーベルトはボーンドラゴンとの戦闘で怪我こそ負ったものの、わずか一日足らずで回復出来る程度の軽傷であった。
セリーヌが念の為に回復魔法をかけたのも大きい。
「おぉ。少年ではないか。体の調子はどうだ?」
「聖女様のお陰でもう剣を振り回せるよ。思いっきりへし折れたから買い直しだけどな」
「報奨金が私達にも出てくれて助かりました。これで何も得られなかったら最悪でしたよ」
「フハハハハ!!そうか?まぁ、そういうことにしておこう」
「........?」
なにか含みのあるアリイの言葉に、セリーヌは首を傾げる。
アリイは二人を見た瞬間に気がついたのだ。少々、2人の距離が近すぎると。
大方、死地を乗り越えた後お互いの気持ちでも伝えあったのだろう。そうなればやることは一つである。
何も得られなかったわけが無い。彼らは、この生涯で最も大切な者を手に入れたのだ。
しかし、その事を言ってしまってはあまりにも品が無さすぎる。アリイも男である以上下世話な話もすることはあったが、異性がいる場でそういう話をするほど愚かではなかった。
それでも少し揶揄いたいので、かなりぼかして言葉にするが。
言葉の意味に気がついたルーベルトは苦い顔をしながら頭を掻く。カナンは純粋な心の持ち主なのか、その言葉の意味を理解できなかった。
「それで、我らを見送りに来たのか?」
「これだけ世話になって見送りの一つもしないなんて人としてどうかって話だよ。俺は聖女様に英雄以前の問題を教えられて、勇者様にその道筋を教えて貰ったんだ。せめて、お礼を言わせてくれよ。本当は飯でも奢ろうと思ってたんだが........2人は忙しそうだしな」
「本当にありがとうございました」
「ありがとう勇者様。聖女様。俺はもっと強くなるよ。カナンと一緒に」
そう言ってぺこりと頭を下げるルーベルトとカナン。
なんとも言えない恥ずかしさに襲われたセリーヌは、冗談じみた声を出す。
「それは残念です。是非とも奢られたかったですよ。タダ飯ほど美味しいものはありませんしね」
「フハハハハ!!では、また会った時に奢って貰うとしよう。その時まで、達者でな」
「あぁ。少なくとも、死ぬような真似はしないよ。常に二人の言葉は胸に刻んで生きていくつもりだから」
「また会いましょう聖女様、勇者様。その日を楽しみに頑張ります。ルーベルトと一緒に」
「楽しみにしています。再会するその日を」
「フハハハハ!!楽しみにしておこう」
こうして、セリーヌとアリイは再び歩き始める。
そして小さな英雄にその背中を見送らながら門をくぐると、セリーヌが口を開いた。
「ルーベルトさんは大切な者に気がついたようですね。将来が楽しみですよ」
「フハハ。あの魔物の波の中を生き抜いたのだ。もしかしたら、本物の英雄となって歴史に名を残すかもしれんな」
「........私の代わりに魔王を討伐してくれないですかね?」
「無茶を言うな。まだまだ少年は己の道を歩む時間なのだよ。ゆっくり歩いていく時なのだ」
きっと、ルーベルトは英雄になるだろう。
自分の中で答えを見つけた者は、その道にまっすぐ進むのだから。
「次の目的地は?」
「つぎは国を出てロストンの街へと向かいます。バットン王国の辺境の街ロストンですね。ちなみに、バットン王国はシエール皇国の勢力圏内なので、その気になれば私の権力を使えます」
バットン王国の国教はシエール皇国同じである。
シエール皇国が総本山の為、セリーヌの権力がまだまだ使える場所であるのだ。
しかし、国を出るとセリーヌの顔を知る者は減る。セリーヌはその事が嬉しかった。
「使うのか?」
「どうしても必要となれば使いますが、まぁそんなことにはならないと思いますよ。あの街の領主様はかなり有能かつ優しい方で、以前街を訪れた時はとても素晴らしい街でしたから」
「ほう?それは楽しみだな」
「あそこは川魚がとても美味しいのですよ。山から流れる自然の水によって生まれた魚達........焼いて塩をかけるだけで絶品です」
「ほう!!それは楽しみだな。街に着いたら是非とも食べてみたいものだ」
「ふふっ、きっとアリイ様も気に入りますよ」
雲ひとつない晴天の中、聖女と異世界魔王の歩みがまた始まる。
次の目的地はバットン王国ロストンの街。
旅はまだまだ始まったばかりだ。
後書き。
この章はここまで。いつも沢山のコメントありがとうございます。全部読んでるよ。
ルーベルト君、最後まで殺すか悩んだ。そして代わりに商人が死んだ。南無三。
次は彼らが出てきます。で、やばい子がヤバくなります。聖女?しらねぇよ。
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