アハっ‼︎
アリイがルーベルトとカナンを助け出していた頃、セリーヌと魔物達の戦いはさらなる熾烈さを増していた。
今では中級魔物ばかりが溢れているが、それでもセリーヌの動きが衰えることは無い。
その様子を見ていた冒険者や街を守る兵士達は、自分達の目を疑った。
「おいおい。本当に魔物が一体も流れて来ないじゃないか........俺達、必要なかっただろこれ」
「援護しようかとも思ったけど、絶対に邪魔をなるわよねこれ。というか、何あれ。さっきからずっとあの調子で暴れているわよ?聖女様に向けて言う言葉では無いけど、同じ人間とは到底思えないな」
「普通、全力で運動をしたら長くても五分が限界だ。既に30分以上も暴れ続けられている時点で、俺達とは生きている世界が違うな」
戦闘を開始してから約30分。
セリーヌは、最初の目標通り一体も街に魔物を流すことなく全てをその場で処理していた。
その小さな体で巨大な鎌を操り、ありとあらゆる相手を切り刻んでいく。
力任せに相手を吹き飛ばし、兎に角広域に渡り魔物を蹂躙するその姿は聖女と言うよりも狂戦士に近かった。
「アハッ!!アハハハハ!!」
「ここまで笑い声が聞こえてきやがる。先代聖女様は信仰心がかなり強いお方で正直苦手だったが、こちっちはこっちで怖いな。あの何千といる魔物の大軍相手に、笑いながらかまを振り回す奴がどこにいるんだ」
「ちょっと失礼すぎよ。聖女様は私達のために戦ってくれているのよ」
「お前だって“同じ人間だとは思えない”って言ってたじゃないか」
「私は強さの話をしてるの。性格の話じゃないわ」
戦場から聞こえるのは魔物の悲鳴だけではない。その中で最も目立つのは、セリーヌの笑い声であった。
その声はとても幼く、まるで遊びに出た子供のような純粋な綺麗な笑い声をしている。
しかし、その光景が血と臓物に塗れた殺戮となれば誰もが顔を顰めるだろう。
彼らの目には、そんな異質な光景が広がっているのだ。
「ギィィ─────」
「邪魔ですよ」
これほどの殺戮が演じられているというのに、一向に逃げる気配のない魔物達。
セリーヌは、ニィと口を大きく歪めながら、グリーンモンキーを横凪に切り飛ばす。
ついでにとばかりに、振るわれた鎌は風を巻き起こし、周囲の魔物を空中に打ち上げる。
空を飛ぶ手段を持たない魔物たちは地面に叩きつけられ、運が悪い者はその場で人生に幕を閉じた。
「アハッ!!こうして暴れるのはいつぶりですかね?アリイ様をこの世界に呼び出すよりもさらに前ですから........あぁ、確か山賊の始末をこっそりやった時以来ですかね。あの時は山を半分消してしまってバレないかヒヤヒヤしてましたか」
セリーヌは、そう言いつつもまだまだ終わりの見えない魔物の群れを見て少しばかりウンザリする。
別に魔物を蹴散らすことに関してウンザリしている訳では無い。むしろ、久々に体を動かせて楽しく思っているぐらいだ。
セリーヌがうんざりしているのは、その魔物のラインナップ。
数多くの魔物が住むと言われている魔の森だが、流石にそろそろ種類の在庫が切れそうになっている。
毎回同じような戦い方を強いられるのは正直楽しくない。これなら、ワイワイガヤガヤうるさいどこぞの魔王のデコピンを撃ち返している方が楽しいだろう。
「流石に本気で魔法を使う訳にも行かないからなぁ........仕方がない。もう少し頑張ろっと」
徐々に飽きが来てしまいながらも、セリーヌは己の責務を果たす。
凄まじい勢いで魔物たちを蹂躙し、目に映る全てを切り刻む。
そして地面にちらばった血と臓物。
それでも、セリーヌの口元だけはずっと笑っていた。
「グギギギ!!」
「まーた、シャーマンゴブリンですか。一体どれだけ出て来れば気が済むんですかねぇ」
何度目になるのか分からないシャーマンゴブリンの出現。
別に放置してもいいのだが、シャーマンゴブリンは魔法という明確な遠距離攻撃手段を持っているため、下手に放置すると街に被害が行く。
手前から順に倒したいセリーヌからすれば、わざわざ優先的に倒さなければならない相手だ。
面倒無ことこの上ない。
しかも、今回はパッと見で30匹近い群れでの出現。
セリーヌからすれば、ウザイ以外の言葉が出ないだろう。
「この世界のゴブリン種を絶滅させたい気分になりますね」
「グギギ!!」
セリーヌはそう言いながら、シャーマンゴブリンの群れに突っ込む。
もちろん、行きがけの駄賃として周囲の魔物を斬り殺しながら。
対するシャーマンゴブリンは、迫り来る狂った聖女にそれぞれが得意とする魔法を行使。
炎、水、風、土、光、闇。全ての属性がセリーヌに向かって降り注ぎ、セリーヌを止めなければと魔力配分も考えずにぶっぱなす。
ドゴォォォォン!!と、魔法がセリーヌに直撃する。
勝ったと思ったらシャーマンゴブリン達はニヤリと笑うが、次の瞬間シャーマンゴブリン30匹の頭が吹っ飛んだ。
「全く。この程度で私が死ぬのなら、今頃私は他の場所で野垂れ死んでますよ」
魔法を食らったはずのセリーヌ。しかし、セリーヌは当然のように無傷であった。
特段防御した訳では無い。魔法を切り裂いた訳でも、避けた訳でもない。
単純に体が強すぎた。それだけの話である。
無意識に纏う魔力が、鉄の装甲よりも硬いだけ。中級魔物の本気の魔法すらも無力化してしまうほどに無茶苦茶なだけの話なのだ。
「さて、まだまだ魔物は多いですし、ここらでさらに路銀を稼がせてもらいますよ」
セリーヌはそう言うと、殺戮を続ける。
斬っては殺し、殴っては吹き飛ばし、斬撃を飛ばしては全てをぶった斬る。
魔物からすれば悪夢もいいところだ。魔の森の主に追われて逃げていたかと思えば、次は聖女という名の死神が自分たちの命と魂を刈り取るのだから。
それでも前に進もうとしていたのは、長年魔の森に住んでいただけあってヌシの方が怖いからだろう。
既に雨は止んでその主が死していようとも、怖いものは怖いのだ。
そうして、セリーヌはさらに暴れること15分。
ほぼ全ての魔物達が殲滅され、残すところはあと100体にも満たなくなってきた頃。
セリーヌの手が止まった。
「........遅いじゃないですか。私がほとんど全て片付けましたよ」
「フハハ!!この森の主とやらとちょいと遊んでいたからな!!それにしても、凄まじい血の量と魔物の数だな。これでは片付けすら大変だぞ?」
背後から聞こえてくるアリイの声。どうやら、アリイはに自分の任務を終えたらしい。
そして、アリイの言葉に顔を歪めた。
「うわぁ、手伝いたくないんですけど。この魔物達の換金だけ済ませて逃げられませんかね?」
「フハハハハ!!相変わらずだなセリーヌよ。多分それは難しいぞ?何せ、明日はこの街の勝利を祝うだろうからな。主役が居なければ盛り上がるものも盛り上がらん」
「それ、サラッと私を生贄にして自分は逃げようとしてますよね?逃がしませんよ。死なば諸共です」
「それでも聖女か。我まで巻き込むでは無い」
「いーえ、絶対に巻き込みますよ。もしそんなことになればですが........さて、どうしてます?最後はアリイ様がやりますか?」
「フハハハハ!!セリーヌの魂胆はわかっているぞ、ここで我にも功績を持たせることで我を生贄の羊にしようとしているだろう。その手には乗らん。精々、この街の英雄として祝われることだな」
「はぁ、嫌になりますね。いや、私の権限で騒がないようにさせれば........」
「聖女としての評価を落としたいなら良いのでは無いか?」
「ぐぬぬ........」
セリーヌは結局祝われることが確定してしまった未来に対して不満をぶちまけるかのように、残った魔物達を無惨に切り捨てるのであった。
後書き。
セリーヌちゃん、これでも相当手加減してる(本気を出すと街まで巻き込むから)。もうセリーヌちゃん一人で魔王討伐できるだろ(白目)。
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