骸の竜vs異世界魔王


 森の中に取り残された冒険者達を救おうと魔の森へと駆け出したアリイだったが、上空から見つけた冒険者殆どが死していた。


 街に魔物が来た時点で、森の中は既に魔物の波に飲まれている。


 その波に耐えられる冒険者は、かなり少なかった。


(予想はしていたが、助けられたのはたった一組。それも、5人パーティーの内3人だけか)


 気付くのがもっと早ければ、もう何人かは救えた事だろう。


 しかし、これはアリイのせいでは無い。こればかりは、例えアリイでもどうしようも無いことなのだ。


「よく耐えたな。少年よ。我が来たからには、安心するといい」

「ハッ、ハハッ来るのが遅いぜ勇者様........」

「ルーベルト?ルーベルト!!」


 ルーベルトは、アリイが来たのを確認するとそのまま意識を闇の中へと落としてしまう。


 カナンが涙目になりながら、ルーベルトを支え何度も肩を揺さぶった。


「フハハ。安心するといい。ただ気絶しただけだ。極度の緊張から解放され、疲れが一気に来ただけだろう。案ずるな」

「よ、良かった........」


 アリイにそう言われ、カナンは胸を撫で下ろす。


 ここでルーベルトが死んでしまっては、カナンは自分を責めることになっただろう。


 彼女はルーベルトの胸に手を当て、その鼓動を感じ取ると同時に目の前で起きようとしている英雄の戦いを見つめた。


 おそらく、ルーベルトが目覚めたあとこの戦いの話を聞きたがると思って。


「骨のドラゴン。少女よ。こやつの名前はなんと言う?」

「ぼ、ボーンドラゴンです。気をつけてください。奴は最上級魔物で─────」


 カナンがそう言いかけた瞬間、突如として空から降りてきた魔の王を見てた骨の竜が動き出す。


 カナンの目では捉えられない程に早い一撃。彼女は、結果しか見えていなかった。


 ドゴォォォォォォン!!と、凄まじい音が鳴り響き、魔の森を形成する木々が吹き飛ばされていく。


 砂埃が舞い上がり、その先に何が起こっているのか分からず呆然としているとアリイの笑い声が聞こえた。


「フハハハハ!!大人しく“待て”も出来ぬのかこの骨は。それにしても、我の知る骨の竜に比べて随分とみみっちい奴だな。我相手に小手調べでもしているつもりか?」

「グルルル........」


 砂埃の中から現れたのは、ボーンドラゴンの一撃を軽々と受け止めるアリイの姿。


 右翼から繰り出された一撃は、アリイの人差し指によって止められてしまっていたのだ。


 ボーンドラゴンは混乱する。


 未だかつて、自分を害する存在などいなかった。だからこそ、ここで無駄なプライドが出てきてしまう。


 俺はこの森の王だ。道を開けろと強気に出てしまうのだ。


「グヲォォォォォォ!!」

「お、ブレスか。どこの世界も竜のやることは変わらんな。無駄に傲慢で自分たちが絶対的な力を持っていると過信している。フハハ。貴様よりも強い者など腐るほどいるというのに、それを認めようとしない。ここは大人しく逃げるのが正解であったぞ?まぁ、逃がすつもりもないがな」


 ボーンドラゴンが大きく口を開け、口の中にエネルギーが集約していく。


 ドラゴンブレス。


 ドラゴン及び竜種が最強の種族と言われる理由の一つであり、このブレス1つで街は軽々と滅びる。


 空の上から降り注ぐ竜の怒りに耐えられる者など居るはずもなく、彼もまたそんなブレスでひとつの街を滅ぼした過去があった。


 が、過去は過去であり、その栄光に縋り付くだけで前へと進まない者に真の強者は倒せない。


 彼らは所詮、生まれ持った才能を振りかざすだけの弱者に過ぎないのだ。


「ふむ。偶には強めに撃つか。ほれ、我のデコピンと勝負だトカゲよ」

「グヲォォォォォォ!!」


 ボーンドラゴンから放たれる一閃。


 全てを滅ぼすブレスがアリイに向かう。


 これを喰らえばタダでは済まない。それだけの自信がボーンドラゴンにはあった。


 が、彼は真の強者を知らない。目の前にいるのは、全人類を相手にしても尚生き残った正真正銘の化け物なのだ。


 ピンと、普段よりも強く指を弾くアリイ。


 セリーヌと遊んだ時やゴブリンを殺す時とは違い、本気のデコピン。


 たった一粒の魔力。


 それが、ボーンドラゴンの切り札を吹き飛ばした。


 パァン!!


 膨大な魔力を纏ったブレスだったが、一瞬にしてそのブレスは霧散する。


 何が起きたのか分からなかったボーンドラゴンは、その動きを止めてしまった。


 そして、アリイはその隙を逃さない。


「フハハ。切り札が打ち破られて悲しいのは分かるが、我を前にして油断しすぎではないか?それと、龍ならば空を飛べ馬鹿者」

「グゲッ!!」


 懐に潜り込んだアリイは、5m以上もあるボーンドラゴンを思いっきり蹴り上げる。


 その威力は凄まじく、ボーンドラゴンが気づいた瞬間には雲よりもはるか上に打ち上げられていた。


「フハハハハ!!空が晴れたな!!いや、我が晴らしたとでも言うべきか!!ちょいと勢いよく蹴りすぎたわ!!」


 何が何だか分からないボーンドラゴンの真横で、死神の声が聞こえて来る。


 アリイは、ボーンドラゴンを蹴り飛ばしたその後素早く空を飛んでボーンドラゴンに追いついたのだ。


「ここならば地上に影響は出まい。ほれ、耐えて見せろ」


 握りこぶしを見せつけるように構え、軽く腕を振るう。


 ガン!!


 アリイの拳は的確にボーンドラゴンの頭を捉えると威力が強すぎたのか、一瞬で粉々に砕け散った。


 なんと呆気ない最後。なんと惨めな最後。


 絶対的強者として森野主として存在していたボーンドラゴンは、僅か三手でその長い人生を終えてしまった。


「ふむ。弱いな。これが本当にこの森の主が怪しくなってきたぞ?しかし、この近くにこやつよりも強い気配はしないしなぁ........強大なものに追われているだろうとの推測だったが........こんなものか。まだセリーヌと遊んでいた方が楽しいかもしれん」


 砕け散ったボーンドラゴンが地面へと落ちていく様を見ながら、アリイはつまらなさそうに呟く。


 カナンは先程、ボーンドラゴンは最上級魔物に位置すると言っていた。


 単純に考えれば、ボーンドラゴンは上から二番目の強さにいると考えられる。


 しかし、アリイからすればこれは雑魚同然であった。


「1番上の階級が終焉級魔物だったか?これではあまり期待ができぬな。ま、我としては楽になるから良いが」


 アリイはそう呟きながら、ルーベルト達の元へと降りてゆく。


 天を覆っていた雲はアリイの一撃によって吹き飛ばされ、魔の森は光を浴びて輝く。


「怪我はない........いや、怪我はしているな」

「すいません勇者様。私が足をくじか無ければ、ルーベルトも怪我をすることは無かったのに........」

「フハハ。結果的に生き残ったのだから、それで良いでは無いか。少年も大きく成長したようだし、良き経験になったと思っておくべきだぞ。そのぐらい適当に考えておいた方が、少年のためにもなる」

「はい........そういう事にしておきます」


 カナンはそう言うと、愛おしそうに眠るルーベルトの顔を撫でる。


 今日一日でルーベルトは大きく変わった。大きな目標を掲げる前に、自分にとって何が大切なのかを理解しそしてそれを守りきった。


 人々はアリイやセリーヌを英雄と呼ぶだろう。しかし、カナン個人という視点で見れば、今日の英雄はルーベルトであったはずだ。


 アリイはこの時間を邪魔するのは流石に空気が読めないと思いつつも、セリーヌに全てを任せていたことを思い出す。


 この微笑ましい光景を見ているのも悪くないが、後でセリーヌに怒られるのだけは勘弁だ。


「では、帰るか。もう既に人の気配はこの森の中にない。元凶も滅ぼしたし、後は街を守るだけだな」

「はい。ありがとうございます。勇者様」


 こうして、1人の少年の大きな成長の物語は一先ず幕を閉じた。


 後は街への被害が無いことを祈るばかりだ。






 後書き。

 ルーベルト生存‼︎ルーベルト生存‼︎

 尚、一番見たかったであろうアリイの勝負は見られず。

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