ヒールクの冒険者ギルド
無事にヒールクの街に辿り着いたアリイとセリーヌは、宿を確保し一日過ごした後冒険者ギルドへと顔を出していた。
この国では聖女たる行動を心がけなければならないセリーヌと、一応は勇者であるアリイは冒険者ギルドで滞っている問題を幾つか解決しなければならない。
それが、セリーヌが聖女としての立場を保つための方法だ。
決して面倒だとは思っていない。決して。
「噂には聞いておりましたが、勇者様の召喚おめでとうございます聖女様」
「ありがとうございます。ギルドマスター。それでですね、私達はこのギルドで滞っている依頼を幾つか解決してからバットン王国へと向かいたいと思っております」
「おぉ!!それは有難い!!........のですが、どれも聖女様や勇者様のお手を煩わせるものではなくてですね........」
ヒールクの冒険者ギルド。
その冒険者ギルドのマスターが居る部屋に案内されたアリイとセリーヌは、当初の予定の通り滞っていた依頼を幾つか解決しようとしていた。
セリーヌはできる限り騒がれないようにしたかったのだが、この国で聖女の顔を知らないものなどあまりいない。
その可愛らしい見た目から、セリーヌは人の記憶に残りやすいタイプであった。
また、冒険者ギルドでは名前の偽装などは許されていない。“セリーヌ”という名前を見れば、誰でもその聖女を連想させてしまう。
こうして、セリーヌはまたしても冒険者ギルドで小さな騒ぎを起こしてしまいながら、ギルドマスターの部屋へと案内されたのであった。
「と言うと?」
「ドブさらいや、城壁の建設などですね。聖女様方にお願いしてもいいのですが、冒険者の罰として使っている側面もありまして、依頼を達成されてしまうと少々問題があるのですよ」
「なるほど。問題を起こした冒険者への罰として使うなら、確かに我らがその仕事をするべきでは無いな。冒険者ギルドとしても、罰となるものがあった方が都合がいい」
「はい。ですので、お好きなように依頼を受けてくださって構いません」
でっぷりと太ったギルドマスターは、ハンカチで滲み出る汗を拭きながらそう言う。
実はこのギルドマスター、セリーヌがレーベスの街で何をやらかしたのかを知っている。
街からほとんど出ない人達は、聖女の事を清く美しい人だと思っているがギルドマスターからすれば機嫌をそこなえばどうなるのか分かったものでは無いのだ。
次の瞬間自分の首が飛ぶかもしれないという想像をしてしまえば、汗の1つや2つ出てしまう。
彼はある意味セリーヌの被害者である。
「分かりました。では、失礼いたします」
「フハハ。失礼する」
そんなギルドマスターの緊張を見抜いてか、セリーヌとアリイはさっさと部屋を出た。
そして、小さくため息を付く。
「私をなんだと思ってるんですかね?あのギルドマスターは。私に知られると都合の悪いことでも隠しているのですか?」
「フハハ。そんな腹芸ができるのであれば、今頃汗など流しておらぬよ。単純にセリーヌの噂を聞いて怯えていただけに見えた。全く、この国の聖女は恐ろしいな」
「失礼しちゃいますよ。私だって真面目にお仕事をしているというのに」
「その仕事に、教会の天井を切り飛ばすことも入っていたのか?」
「あれは不慮の事故です。少なくとも、表向きはそう処理されていますよ」
“表向き”と言っている時点でアウトである。
全く悪びれる様子もなく淡々と言い放つセリーヌに、アリイは苦笑いすら浮かべることが出来なかったのであった。
【魔の森】
ヒールクの街の近くにある広大な森。多種多様な魔物が多く生息しており、定期的に冒険者ギルドが総力。上げて狩りに出る。
が、あまりにも広すぎるので狩りができるのは森の浅い場所のみ。その奥は、未だに調査されていない。
冒険者ギルドの一階に戻ってきたアリイとセリーヌは、依頼を選んでいた。
好きなように依頼を受けていいと言われたので、自分達の階級に合った仕事を探すのだ。
近くに魔の森があるだけあって、その依頼の内容も豊富。
アリイは面白そうな依頼を手に取ると、セリーヌに提案をする。
「これはどうだ?」
「ブラッドベアの討伐ですか。素材は爪と牙と魔石。そこまでかさばらないので、持ち歩けますね。依頼料もそこそこ悪くありませんし、確かブラッドベアの肉は買取をしていたはずです。持ち帰った分だけ収入が増えます」
「では受けるか?」
「いいんじゃないでしょうか。アリイ様にしては、いいセンスをしています」
「フハハ。その言い方ではまるで我のセンスが悪いように聞こえるぞ?」
「そう言っているのですよ。好き好んでドブさらいや街で猫探しする依頼を受けようとしていたのはどこの誰でしたっけ?」
冒険者はその日を生きるために仕事を受ける。そして、その仕事が時間の割に報酬が不味ければ受けることもない。
趣味で冒険者をやっている感覚に近いアリイをほかの冒険者が見たら、“センスがないな”と思うのは間違いないだろう。
アリイもそれは自覚していたので、これ以上セリーヌに言い返すことは無かった。
受ける依頼も決まったし、仕事に行こうとすると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あ、聖女様と勇者様じゃん。何してんの?」
「む?おぉ、昨日ぶりだな少年」
振り返れば、そこには昨日別れたルーベルトの顔があった。
「依頼を選んでいたのですよ」
「へ?聖女様が冒険者の仕事をするのか?」
「えぇ、と言うか、言ってませんでしたっけ?私達は銀級冒険者として今は旅をしているのですよ」
「へー、そうなんだ。銀級って言えば、ベテラン冒険者だよな!!俺達はまだ銅級冒険者だけど、いつか銀級、金級って上がって最終的にミスリルまで行くんだ!!」
「フハハ。頑張るといい。ところで相方はどうした?」
「カナンのことか?カナンなら今、受付にいるよ。なんでも情報収集だとか」
退屈そうにするルーベルトとは裏腹に、セリーヌとアリイはカナンの行動に感心する。
アリイは案内役となるセリーヌがいるから問題ないが、彼らはこの街が初めてなのだ。
初めての街でまず何をするべきかと言えば、その街を知り情報を集めることである。
知っていれば命が助かる場面は多い。特に、冒険者は情報が命と考えるものも多くいる。
「俺は早く魔の森ってやつに行きたいんだけどなー。カナンは真面目だからさ」
「ふむ。少年はなぜカナンと一緒にいないのだ?」
「カナンが“お前が来てもどうせ話なんて聞かないんだし、大人しく依頼でも見てろ”ってさ。まぁ、確かによくわからん話をされても俺は聞かないから間違ってないんだけど」
「フハハ。なるほど。あの少女ならば言いそうなセリフだ。が、少年よ。お主も話は聞いておいた方がいい。例え分からなくともな」
「........?何で?」
アリイの助言が理解出来ず、純粋に首を傾げるルーベルト。
アリイは素直な態度には好感を持ちつつ、理由を述べた。
「それが時として命を救うからだ。こればかりは、実際に体験しなければ分からんだろうがな。英雄になりたくば、分からずともやってみることだ」
「んー、勇者様がそう言うなら分かった!!ちょっと行ってくる!!」
ルーベルトはそう言うと、元気よく走り出してカナンの元へと向かっていった。
忙しいやつだと思いながらも、その背中を見送る。
「お優しいですね」
「フハハ。どっかの誰かと一緒にいたからか、少しその優しさが移ったのかもしれんな」
アリイはそう言うと、依頼書を持って受付へと向かうのであった。
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