レーベスの街
無事レーベスの街に辿り着いたアリイとセリーヌ。
検問所でセリーヌが聖女だとバレ、少し騒ぎになったもののその後は特に問題なく街へと入る事が出来た。
セリーヌの狙い通り、権力を不要に振り回さないその姿は人々に感動されちゃっかり好感度を上げている。
アリイは何も言わなかったが、セリーヌの腹黒さに少々引き気味であった。
「この街も白くて眩しいな。目が悪くなりそうだ」
「白は純粋の表れ、人々を照らす太陽と言われています。逆に、黒は不吉の象徴。光を覆い隠して恐怖を与える闇と言われていますからね。多くの宗教国家は白を好む傾向にありますよ」
「フハハ。そこはどこの世界も変わらんな。白だからなんだと言うのだ。それをみにつけているからと言って、人の醜さを隠せる訳でもないと言うのにな」
「全くです。白いからこそ余計に目立つというのに」
レーベスの街は聖都と同じく、白を基調とした光り輝く街であった。
とにかく明るく、そして眩しい。
アリイは目を細めながらも、街の人々を眺める。
聖都程では無いが、活気のある街。多くの人々の顔は笑顔であり、この街に住む人々がどれだけ明るい世界で生きているのかが分かる。
少なくとも、表向きは綺麗な街に見えるだろう。
問題は、黒い部分がどれだけ深いのか。
貧困層に行けば、この街の真の姿が見えるはずである。
「さて、先ずは宿を取りましょう。あまり贅沢はできないので、休めの宿を取りたいところです」
「聖女の威光を知らしめれば、どの宿であろうとも無償で提供してくれそうだがな」
「権力はできる限り使いたくないのですよ。だって嫌でしょう?権力者がろくに金を払わず有難みだけを押し付けるだなんて。アリイ様はその立場を利用して、タダ飯でも食べていたのですか?」
「フハハ。確かにそのようなことをした覚えは無いな。我が悪かった。許せ」
アリイも魔王として国を治めていた時であろうと、ちゃんと払うべき金銭は払っていた。
民に金を流すことも王の役目。金を回すことで人々の生活を豊かにするのも権力者の仕事である。
流石に考え無しの発言だったとして、アリイは素直に頭を下げた。
ここはアリイの知る世界では無い。いくら頭を下げようとも、魔王としての格などないのである。
「別に気にしてませんからいいですよ。それでは泊まる宿を探しましょう」
「普段泊まっている宿とかないのか?」
「あそこは高すぎます。後、行事の時は仕方がなく泊まっていたましたが、あまり高級すぎる宿って肌に合わないんですよ。なんか無駄に広くて落ち着きません」
「フハハ。引きこもりの聖女に、広々とした空間は過ぎたものであったか」
「そういう事です。適度な広さがあれば私は十分なんですよ。ちなみに、アリイ様が高級宿がいいとゴネても聞きませんからね」
「案ずるな。雨風を凌げるだけで我は満足なのでな」
「それは良かったです。かつての文献には我儘でどうしようもない勇者も居たらしいですからね。その時は、しっかりと教育しなければと考えていたのですよ」
教育(暴力)だろうな。と、アリイは自分の中でセリーヌの言葉を変換する。
アリイは戦争を何度も経験しており、酷い環境の中でも普通に過ごせるだけの忍耐力がある。
もし、その我儘勇者のような甘い環境の中で育っていたとしたら、間違いなくセリーヌに十字架を振り下ろされていたことだろう。
この聖女は、人に暴力を振るう事に何ら躊躇いがない。
聖女というか、最早蛮族の方がしっくりくる。
(我と相性がいいのが気に食わんがな........なぜこのような聖女と上手くやって行けるのか不思議だ)
「何か言いましたか?」
「何も言っておらぬぞ。遂に神の言葉でも聞こえるようになったのか?」
「神の言葉なんて聞く価値もないですよ。所詮は偶像の戯言ですから。私の勘違いならそれでいいです」
神の言葉を“偶像の戯言”と言い切るセリーヌ。
異端審問に今すぐかけるべきなのでは?とアリイは心の中で思いつつ、会話を続ける。
「ところでダンジョンの詳しい話を聞いておらぬのだが、どのような所なのだ?」
「アリイ様の世界には無かったのですか?」
「少なくとも、ダンジョンと呼ばれる場所はなかったと記憶している」
「へぇ、似た世界でも違いは多くあるのですね。ダンジョンとは、簡単に言えば資源の宝庫です。魔力によって作られた門があり、その先は完全なる別世界。多くの魔物が溢れており、その魔物を倒して人々は資源を得ます」
「ふむ?別世界なのか?」
「正確なことはまだよく分かっていないのですよ。はるか前から存在し、人々が研究しているにも関わらず、分かっていることといえば、無限に魔物が湧いて出てくる事とダンジョン内で倒した魔物は素材だけを残して消えるという事です」
セリーヌはそう言いながら、首を横に振る。
人類が歴史を残し始めた頃から存在していたダンジョン。
魔力によって作られた門を潜れば、そこは完全なる別世界。しかし、その原理や仕組みは未だよく分かっておらず、神の恵みとも言われている。
尽きることの無い資源庫であり、人々の発展には常にダンジョンの影がある。
原理も理屈も分からないその現象を、人々は神と結びつけるのだ。
「要は、魔物が出てくる特殊な場所ということか。実に楽しみだな」
「私も何度か潜った事がありますが、中々に面白い場所ですよ。小さい頃、街の中を探検した思い出と似たような楽しさがあります」
「ほう?セリーヌはそんな事をしていたのだな」
「アリイ様は無いのですか?」
「ない。我が幼い頃は、ずっとサメと遊んでいたからな。魔族の友人も居なかった」
「アリイ様、悲しくなるような事を言わないでください。触れづらいです」
「いや、今は友人がおるがな?あの時はサメと遊ぶのが楽しくて仕方がなかったのだ。魔族とか面倒なやつしかいないし、純粋に遊んでくれるサメと接していた方が楽しいとな。お陰で、我が魔王となった後のコミュニケーションが大変であった........」
昔のことを思い出したのか、若干疲れた顔をしているアリイ。
今でこそちゃんとしたコミュニケーションを取れるアリイだが、昔はサメの魔物以外とはコミュニケーションが取れないコミュ障であった。
純粋なサメと本音と建前を使い分けながら欲を満たそうとする魔族。子供が接していてどちらが楽しいのかと言えば、前者になるだろう。
セリーヌはアリイの過去を知り、少しだけ楽しそうであった。
魔王にも、そんな時期があったのかと。
「ふふっ、異界の魔王様も随分と可愛い幼少期があるのですね」
「誰だって幼い時期はあるものだ。そして、その時期に培ったものが今を作る。我は、その仲良くなったサメたちを引き連れて魔王の地位まで上り詰めてしまったのだよ」
「まぁ、気持ちは分からなくもないですがね。人付き合いとかも面倒ですし。アリイ様が勇者で本当に良かったと思いますよ。こうして本音で話せるので」
「フハハ。我も立場がほぼ無いのでは。こうして本音で話せる。意外と、建前など要らぬのかもしれんな。言葉を持つ生き物の悪い所だ」
サラッと聖女でありながら人付き合いが面倒だと言い切るセリーヌの言葉を流しつつ、アリイは何となく自分とセリーヌの気が合う理由が分かった気がした。
【ダンジョン】
この世界にある、特殊な場所。何もかもが不明であり、詳しいことは分かっていない。
ダンジョンに入るとそこは別世界であり、無限に湧き出る魔物や資源が豊富にあるため重宝されている。尚、魔物を倒すと素材だけを残す。ゲームのような世界とも言える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます