先代聖女vs異世界魔王
アーメスとアリイの口論は、アリイに軍配が上がったと言えるだろう。
ただの口喧嘩から武力行使に出た場合、最初に手を出した者の方が敗者となる。
アリイは“先ずは一本”と思いつつ、ニヤニヤと笑いながらアーメスが攻撃してくるのを待った。
後は圧倒的な実力差で格の違いを見せつけるのみ。それが出来れば、この勝負はアリイの勝ちである。
相手が言い訳できないように相手の全力を正面から撃ち破るのだ。
「フハハ。どうした?神の試練を目の前にして、怖気付いたか?」
「その口を閉じなさい。貴方が神を語るのは虫酸が走ります」
杖を構えるアーメス。その直後、彼女は魔法を行使した。
「主よ。人をお導き下さい。
「フハハ。白く輝く剣か。神の威光を借りた剣は眩しいな。見ようとせずとも無理やり目に光を入れてくる。まるで、神の教えを押し付けるどこかの愚者のようだ」
「........ッチ!!」
嫌味ったらしくアーメスを煽るアリイ。
その言葉が自分に向けられたものだと理解しているアーメスは、思わず舌打ちが出る。
セリーヌの舌打ちは可愛いものであったが、先代聖女の舌打ちは全く可愛くない。アリイはセリーヌがそれなりに愛嬌のある人物なのだと、心の底から思った。
(聖属性の魔術........いや、魔法か。悪しき者には聖なる光を。宗教家がよく考えそうな攻撃手段だ)
魔法には様々な属性というものが存在する。
炎、水、土、風、闇、光。
この六属性が基本的な属性であり、その中から幾つもの派生属性が生まれている。
その中でも死者や闇に特化した属性が聖属性。闇を纏う者に対して、死を纏う者に対して絶大な力を誇り、代わりにそれ以外の存在にはあまり火力が出ないのが聖属性の特徴である。
魔王には聖属性。
悪しきものには聖属性。
その様な思考が宗教家には多い。が、何を持ってして悪とするのかは見る者の視点によって変わってしまう。
はっきりと闇を纏った存在でない限り、聖属性と言うのは100%の力を発揮できない。
それが分かってない時点で、アーメスはセリーヌに劣る。
セリーヌならば、まず間違いなく肉弾戦を仕掛けるかもっと火力の出る魔法を使うだろう。
「貫け!!」
聖なる光を宿した剣が、アリイの胴体を貫こうと迫り来る。
世界を救うために召喚されたはずの勇者を殺そうとするとは、最も神の意思に背いているではないか。
アリイはこれで本当に死んだらどうやって責任と見るのだろうかと思いながら、その剣を親指と人差し指で摘む。
ドゴォォォォォォン!!
凄まじい勢いで迫ってきた剣を受け止めたが故に、その衝撃で後ろにあった木々が吹き飛ぶ。
しかし、アリイはその場に立っていた。剣の勢いを全てその身で受止め、平然と立っていたのである。
「........なっ!!」
「フハハ。これならセリーヌが手加減して殴ってくれた方がまだ強いな。聖剣すらもへし折った我の手を傷つけることすら出来ぬとは.......これが神を信仰した者の力か?こんな大したことも無い力を手にするために、神の教えを知るならば、我は要らんな。我の方がよっぽど強い」
「ま、まだまだ始まったばかりです!!」
まさか真正面から受け止められるとは思ってなかったアーメス。彼女は大きく目を見開いて唖然としながらも、続けざまに攻撃を仕掛ける。
「主よ、悪しき者に鉄槌を!!
聖なる光が槌の形を作り出し、聖なる剣を掌の上に乗せてバランスを取りながら遊んでいたアリイに振り下ろす。
ドガァン!!と、再び森が揺れるほどの衝撃が響き渡るが、アリイはその槌を左手の人差し指一つで軽々と受け止めた。
「は?!」
「フハハハハ!!いい表情をするでは無いか!!どうした?こんなものなのか?我をもっと楽しませてみろ!!神の威光を見せてみよ!!さすれば、もしかしたら神が微笑むかもしれぬぞ?ほれ、信仰心が試される時だ」
ちょっと楽しくなっきたのか、ノリノリで槌をデコピンで弾きぶち壊すアリイ。
今の一撃がアーメスの持つ最大火力の魔法であったとは知らず、機嫌よく言葉を並べる。
対するアーメスの顔は絶望の色に染っていた。
それもそのはず。自分の持つ最大火力の攻撃を指一つで止められれば、誰だって絶望を感じるだろう。
しかし、ここで膝を地面に着けてはならない。それは神の敗北を意味するのだから。
「クッ!!」
威力がダメならば数で。
アーメスは光の弾丸を生成すると、マシンガンのように連射する。
威力こそ劣るものの、祈り(詠唱)も必要なく回転率魔力効率に優れた魔法“
降り注ぐ聖なる光の雨。だが、アーメスの最大火力すらも余裕で耐えてしまうアリイにとっては、風船を投げつけられている程度でしか無かった。
「フハハ。足掻け足掻け!!神の威光を信じるのだろう?祈れば救われるのだろう?ほら、どうした?祈りが足らぬぞ!!」
「........っ!!」
聖なる弾丸をその身に受けながら、ゆっくりと歩みを進めるアリイ。
アーメスはここで引いては神の名が廃ると感じ、引くことはしなかった。
一歩また一歩とアリイが近づいてくる。
アーメスはとにかく使えるものは全て使って応戦するが、アリイの頑丈な肉体を貫くことは無かった。
「射程範囲内だ。神への祈りが足らなかったようだな」
「ガハッ!!」
アーメスの目の前に立ったアリイ。アリイは胸ぐらを掴むと、強引に地面に叩き伏せる。
もちろん、本気でやりすぎると壊してしまうのでできる限り丁寧に。
それでも、アーメスの肺からは空気が無くなり呼吸が一時的に出来なくなっていたが。
「して、何か言い残すことは?」
「........ゴボッゴホッ。神を愚弄する者は許しません。例えそれが勇者であろうとも」
「フハハ。我は仲間を愚弄する者は許さん。例え先代聖女であろうとも。貴様にも貴様なりの正義があるのだろうが、貫き方を間違えたな。一方的な正義は時として悪であることを理解するべきであった」
アリイはそう言うと、右手を強く握りしめ大きく振りかぶる。
その目には殺意。確実にここでアーメスを殺す気だ。
「神が貴方に天罰を下しますよ」
「フハハ。神を信じぬものにそれを言って、拳を止めると思うか?命乞いの言葉を間違えたな。墓には花を添えてやろう」
「貴方から貰う花など要りません」
「人の善意すらも拒否するとは。救いようの無い盲信者だ。精々1度死ぬがよい。そして目を覚ますのだな」
ニィと笑い凄まじい速度で拳を振り下ろすアリイ。当たれば即死。狙っている場所が顔面な為、当たれば頭は地面と拳にサンドイッチされ砕け散るだろう。
「さらばだ」
その時であった。
後ろからセリーヌの声が聞こえたのは。
「アリイ様!!いけません!!」
よほど本気で走ってきたのか、服装は乱れ息も荒い。しかし、その言葉だけはハッキリと言わなければならなかった。
が、既に拳は止められない。
ドゴォン!!
アリイの拳が振り下ろされ、森の中に衝撃が走り渡り周囲は砂埃が舞い上がるのであった。
【魔法の分類】
魔法には様々な分類がある。相手に向けて使う攻撃魔法、自身に向けて使う防御魔法、味方の補助や自身の強化に使う補助魔法。
そして、その中に“属性”の分類。炎、水、土、風、闇、光+派生系及び無属性。
全ての魔法はこれらの分類に分けられるとされている。聖属性は光属性の派生系。闇に対してかなり強く、その他の属性に少し弱い。
【詠唱】
魔法行使の補助。
魔法を行使する際にはイメージや魔力の動きを補助する“詠唱”が必要となる。熟練した魔法を使う場合はその限りでは無いが、強力な魔法を使う際は必要な場合が多い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます