第2話

 森に囲まれた街道を走る。


「藤堂君!!状況は?」


「5人が魔物多数と交戦している。非戦闘員が3人いるからおそらく誰かの護衛だろう。今も交戦している人の生命反応が小さくなって行ってる」


 なるほど…武器は看守から奪い取った短剣だけで大丈夫だろうか。

 1分ほど走り続けると馬車が見えてきた。

 質素ながらも豪華に飾り付けられた馬車の周りで騎士と思われる人達が魔物と戦っている。

 魔物を見ると1つ目の巨人、サイクロプスが5体おりその後方に一際大きいサイクロプスが鎮座している。


「漣は負傷した騎士たちを馬車の周りに集めてから参戦してくれ!!俺たちはそれまでこいつらを引きつける」


 藤堂君と佐藤さんはそのままサイクロプスに突進していく。俺はそのすきに騎士たちに駆け寄った。


「助太刀に参りました!!皆さん、あの2人が引き付けているうちにまだ息がある人を馬車の周りに集めてください!!回復魔法が使えます!!」


「助太刀感謝する。おい!!息がまだあるものを馬車の周りに集めるんだ!!急げ」


 騎士の中でもちょっとだけ豪華そうな鎧をまとったダンディーなおじさんが指示を出す。

 その号令を聞いた他の騎士はテキパキと倒れている騎士たちを運んできた。

 負傷した騎士たちは全部で20人…中には手足がちぎれている人もおり見ているだけで吐きそうになる。


「では【パーフェクトヒール】」


 騎士たちの体が暖かい光に包まれ傷を癒していく。ちぎれた手足も元通りになったところで俺は一安心した。


「おい漣!!他に武器あったか?俺の剣壊れちまった」


「俺短剣しか今持ってないんだけど…佐藤さんは何かなかったの?」


「聞いたけどあいつのも壊れたって」


 そのやり取りを見ていた騎士たちは残念ながら殉職してしまった騎士の剣をとり渡してきた。


「これを使ってくれ。君たちが使っていた物よりは使えるはずだ」


 俺はその剣をありがたく受け取り藤堂君に投げ渡した。

 その間に佐藤さんのもとに駆け寄り手渡しする。

 そして何故か俺の頭の中に声が流れた。


『マスターの存在を確認。これよりマスター愛用の武器を召喚します』


 その声と同時に俺の手に握られる1振りの刀。青く輝く美しい刀剣だ。

 そしてその刀を俺は何故か懐かしく思いながら構えた。


「もしや…いや…まさかそんなことが…あの刀…実在していたのか…」


 後ろで何やら騎士たちのざわめきが聞こえるが気にしない。

 刀を腰に構える。

 藤堂君も佐藤さんもその様子に息をのみ後ろに下がっていく。


「我流剣術…雷鳴蒼!!」


 軽く横に一閃。斬撃が飛びサイクロプス5体を真っ二つにし後方に待機していたサイクロプスの足を斬り裂く。


「す、すげぇ…あのサイクロプス達を一瞬で…」


 藤堂君がそう呟いているが俺はそのままでかいサイクロプスの元まで飛んでいき首を落とした。

 そのままサイクロプス達をアイテムボックスに収納し馬車に戻ると皆が立ち尽くしていた。

 どう対応しようか迷っていると馬車から50代前半と思われる威厳のある人と付き人と思われる男性2人が出てきた。


「見事であった。騎士たちも我々を護るためよくぞここまで戦ってくれた。礼を言う」


「へ、陛下!!申し訳ありませぬ。近衛騎士団精鋭部隊ともあろうものがサイクロプスに苦戦しましたこと面目もござりません」


 騎士たちがそう言って頭を垂れているので俺達もそれに習い同じようにする。

 というか今、陛下って呼んでなかったか?


「助太刀、感謝するぞ。勇敢なる若者よ。儂はクラウスィス王国代28代国王、アドレンス・ゼン・クラウスィスである」


「ありがとう、助かったよ。私はクラウスィス王国宰相、レンス・フォン・ディステニー侯爵だよ」


「私は、クラウスィス王国王太子のダン・ゼン・クラウスィスです」


 まさかの国王様と王太子殿下と宰相閣下でした。俺たちは失礼のないように名乗る。


「私はレン・サイトウと申す者です。当たり前のことをしただけですので」


「俺…いや、私はマコト・トウドウにございます。国を追われ国境を越えた所で襲われてるのが分かり助太刀に参上した次第です」


「私はユミ・サトウです。」


 畏まった俺たちをみた陛下が苦笑している。


「そう畏まらなくてもよいぞ。其方達は命の恩人なのだから。所でマコト殿…国を追われたとは何かあったのか?」


「はい…実はその話をする前にひとつ尋ねたきことがございまして…に現在、魔王や邪神などと言った絶対的な悪は存在しているのでしょうか?」


 俺がそういうと国王は他の者達に目配せしたが王太子も宰相も首を横に振った。


「聞いたことがないな…絶対的な悪はもはや伝承でしか伝えられておらん。それもはるか昔のことで実在したかどうかすら怪しいのだ。しかし最近よからぬ噂は耳にしたな。なんでも隣国のグルヴァロス王国が異世界から勇者を召喚したと。ん…?お主、この世界と言うたな。もしかして…」


「ええ、その通りです。私達はグルヴァロス王国の仕業で召喚された異世界の者です。ただ…訳あってその王国から逃げてきたのです」


 その言葉にざわつく騎士達。国王も驚愕の表情を浮かべたのだが宰相に小突かれて元の表情に戻る。


「私達は召喚されてすぐに、この世界が邪神に脅かされているから救って欲しいと言われました。ただ私は人の嘘を見抜ける能力があり、思わず下手な嘘をつくなと小声で呟いてしまいました。それをグルヴァロス王国の国王様が聞いてしまい…キレられて死罪を言い渡され地下牢に3人投獄されてしまいました。罪状は詐欺罪に国家反逆罪など…ありとあらゆる無実の罪を被せられてしまい…脱獄して逃げ出してきた次第です」


 それと同時に俺は称号を提示した。称号をみた国王は宰相に目配せをする。


「その…辛かったですな。ちなみに召喚されたのは君たちだけかな」


「あ、いえ。向こうでは学生だったのでそのクラスごと召喚されました。私達以外は残念ながら…洗脳されてしまいグルヴァロス王国の配下になってしまい。異世界召喚されたことにより気分が上がってたみたいで…世界を救って欲しいと言われただけで舞い上がり詳しい話を聞く前に了承してしまったためどこかに案内されてしまいましてね」


 その言葉に宰相は深くため息をついた。どういうため息なのだろうか…それは俺達には知る由もない。

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