第十章 王が復活するとき その5

--た・す・け・て


『助けて』


 その声が聞こえた時、春平はロイから距離を取った。


 子供の声だ。


『助けて、助けて……』


 集中しすぎた幻聴か?


 でも、かすかに聞こえる子供の泣き声。



≪助けるか?≫


 内なる自分が問う。


 だが、その言葉に春平は即座に反対した。


『確実に殺す』


 意外な顔になる内なる自分。


≪てっきり、小説やドラマのように『助ける』と言うかと思った≫


「親父殿に言われたんだよ、≪人間が人間を救うというのは万物の神でもいない限り思い上がりも甚だしい。それが勘違いの元だ≫」


 内なる自分は、にぃと笑って恭しく言った。


≪では、仰せの通りにしましょう≫



 もう、春平の体は彼の体であって、彼の物ではなかった。


 正行たちの応援も遠い。


 内も外も関係ない。


 誰も気が付いていない、夜空の星々や月が綺麗に見える。


 波が海岸に打ち付ける音も明確に聞こえる。


 死ぬのも生きるのも怖くない。


 あの円相のように中心や円の外、紙の概念もない。


 ただただ、勝手に体が動く。


 機械を殺す。


 左足に深手を負った。


 しかし、血は噴き出しても痛く感じない。


『あ、血が出ている』


 それで終わりだ。


 立てないなら手で立てばいい。


 腕が斬られたら、牙で立てばいい。



 ただ、戦いを見守っていた石動たちもだんだん、春平のほうが気味が悪いように思えてきた。


 どれだけ大怪我をしても全く意にも介さない。


 ただただ、機械を殺している。


「……あれ、じいちゃんだよね?」


 正行の問いには悲痛な叫びすらあった。


「大飯食べて、優しくて、強くて、頭がよくって……」


 涙が出た。


「正行、しっかりしろ!」


 石動が叱咤する。


「だぁいじょうぶ、あのクソ強い爺ちゃんだぞ? 俺を作った製造元だぞ」


 秋水が息子の震える肩を叩く。


 その時、ロイの体から何かが出た。


 四角い箱。


『アディショナル・キリングモードに移行します』


 そのロイと名乗っていた機械は再び変形した。


 それは、まさに機械と鳥獣を合わせたようないで立ちだった。


 殺しの最終究極進化系だ。


 だが、空は飛ばなかった。


 その前に、春平が持っていた『神成』をビーム射出口に投げ、命中。


 刺さった『神成』の柄を素早く拳でねじり込んだ。


『神成』は機械を貫き通し、切っ先が外に出た。


 機械は痙攣のように震え、煙を出し始めた。


 春平は素早く、刀を抜き、距離を取った。


 機械はひれ伏すように倒れ、それ以上、動かなくなった。


 だが、誰一人、喜ぼうともしない。


 血まみれの老人を男三人が見守る。


--助けて


 機械から排出されたのはロイの思考回路や声として組み込まれていた開発者の子供だ。


 そこに、一発の弾丸が秋水たちの後ろから飛んできて当たった。


 超合金なのか、当たっても外装に少し凹みができるだけだ。


 春平は、無言でロイだったものに近づく。


 その様子を見て秋水は誰にも聞こえない、しかし、高性能な盗聴器に聞こえる特殊な発声で狙撃者に言った。


「お前らは余計な手を出すな。これ以上したら、俺も親父も地獄の底、天国の隙間に隠れても見つけ出して殺す」



 狙撃者はイヤフォンから聞こえた言葉にライフルの引き金から指を外し、スコープから様子を見ることにした。

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