第十章 王が復活するとき その4

 機械は無機物でありデジタルである。


 迷いなどはない。


 人間は有機物である。


 迷う。


 この相反する『迷い』などを進化の糧として考えた男がいた。


 目の前には、病気で死にそうな息子がいた。


 妻は戦火の中、出産直後に大量出血で亡くなった。


 人の歴史は争いの歴史である。


 確かに、地球上稀にみる文明を築き、反映した種族はいない。


 同時にこれほど、豊かに繫栄した生態系を壊した種族もいない。


 男は決断する。


 この地球に愛する息子が永遠に生きられるために、邪魔な人間を排除しよう。


 そのために、男は生きている息子から生きるために必要な最低限の臓器を『コア』として兵器に入れた。


 その兵器に国の軍部が飛びついた。


 男には十二分な設備や金が提供された。


 彼の感覚は麻痺していく。


 そして、殺人兵器『ロイ』が生まれた。


 研究者たちは歓喜した。


 だが、『ロイ』は最初に不必要な人間として選定したのは、まさに自分を生んだ父であり、研究者だった。


 だから、彼は自分の意志で自らのプログラムにハッキングをかけて、施設全部に自分の意思に支配下に置いた。


 ロイの父が、異変に気が付いたのは、起動してからだ。


 二十一世紀でも再現不可能な技術などで作られたロイを止めることを提言したが、それを認めるものは誰もいなかった。


 父は、ある賭けに出た。


 遠い未来。


 より完璧になった『息子ロイ』を止める人間へのメッセージをカセットテープに封じたのだ。


 ロイは、国を破壊した。


 機械であるが、実に爽快な気分だった。


 そう、まるで、子供が積み上げた積み木を崩して笑うような、そんな純粋さがあった。


 その『国』という玩具はあっけなく滅んだ。


 周りは炎に包まれた。


 焼かれる人間や家畜、機械類……


 何かの音波を拾った。


 ヘリコプターがロイの近くまで下りた。


「派手にやらかしたものだ……君は、まず、自分の力をコントロールすることを学びなさい」


 ヘリから出て軍服を着た男がロイの前で言い放った。


 うやうやしく礼をする。


「ようこそ、この腐敗した最高の世界へ……破壊神」



 それから、何度も何度も様々な国で改造をされた。


 より、効率的に。


 より、憎しみを込めて。


 より、効果的に。


 より、ジレンマを消して。


 その中で、ロイは変なノイズ雑音を感じるようになった。


 これを人間に示せば、どうなるかは分からない。


 ノイズは時に大きく、時に小さくなる。


 大抵は、消されるノイズだが、『核』の中にある、何かが、それを拒否した。


 だから、隠した。


 ただただ、人間の都合のいいプログラムやアナグラムをした。


 

 より、完璧に。


 より、徹底的に。



 それが、ロイという機械の存在意義である。


 例え、それが誰かのプログラムの継ぎ接ぎであっても。


 もう、自己が分からなくても。


 人を殺すことしかないのだ。

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