第十章 王が復活するとき その3
--何なんだ?
石動肇は、今、現実で起こっていることが理解できなかった。
倒れた老人が立ち上がり、二刀流で、若い自分たち三人でも倒せなかった敵を対等に渡り合っている。
しかも、速い。
今いる、平野平秋水、息子の正行、そして、石動肇の三人の中で一番早いのは石動である。
実際、秋水は以前から『戦闘面で自分はパワー系だから、それを補佐するスピード系に特化させる』と宣言した。
鍛え方も陸上のアスリート選手のようにストイックだし、武器などもできるだけ軽量化している。
しかし、自分が『先手必勝』なら今、
裏社会で『黒き疾風』と呼ばれているが、それは人が作ったものだ。
だが、目の前の老人の速さは目で追うのが精いっぱいだ。
さらに、信じられないことが起こる。
春平の胸からロイの刃によって血が噴き出た瞬間。
「老師!」
慌てる石動に正行が言い放った言葉だ。
「大丈夫です! じいちゃん、血が出ているけど紙一重でかわしています! 致命傷ではないです‼」
「え?」
「何?」
正行の言葉に秋水と石動は驚いた。
「見えるの?」
父の問いに正行は、その言葉に自信が揺らいだのかおずおず頷いた。
「一緒に稽古しているから……かなぁ?」
石動は、もう、言葉も感想もない。
秋水も常識外れだが、正行と老人は規格外だ。
その規格外の老人の日本刀の一本が機械の腕を一本斬り落とした。
確かに、日本刀の斬れ味は同じ刃でも西洋諸国のような突くようなサーベルや叩き切るような重厚な剣でもない。
だが、江戸末期に、ある武士が交渉に来た外国人たちに持っているサーベル全部を台に乗せさせ、一刀両断したという逸話がある。
また、第一次世界大戦では日本刀で居合切りをした敵将校が馬、人間、背負っていた銃剣全部を両断された。
斬ったのは『
日本刀にしては大剣の『神成』に比べれば、地味である。
県が主催した刀剣の展示会に石動達も様子を見たが、大ぶりの『神成』は愛好家らが関心の目で見られるのに対して、『渓水』はほぼ、素通りしていた。
--こいつら、観る目がないね
帰り際、ソフト帽をかぶりながら紳士姿の春平が苦笑いをしたのを石動は覚えている。
『なるほど』とは思う。
二メートル越えの大男である秋水だからこそ『神成』が扱える。
逆に言えば、自分よりも小さい老人が扱うには『渓水』がいいのかもしれない。
だが、今度は素早い反復横跳びから『神成』で二本目の腕も斬った。
夢か?
幻か?
自分より小柄で、たぶん力も弱いであろう老人が鬼神のような強さと速さになっている。
「……神様なんですか?」
無意識に問いが出た。
その問いに秋水は苦笑した。
「この世界に『神様』なんてものは、存在しないと思っている。でも、それに近い人間ってぇのが時たま出るから、世の中怖ぇえな……」
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