王の復活、そして、願いが叶うとき

第十章 王が復活するとき その1

「いてて……」


 秋水はわき腹から出る血を、さほど痛そうにもせずさすった。


「痛くないの?」


 空気弾を弾いて痛む腕をさすりながら正行は聞く。


 彼らは殺戮形態キリングモードになったロイから目を離さないながらも言葉を交わす。


「痛いよ。でも、慣れっこさ」


「そうなんだ」


 一番警戒している石動は思う。


--この親子、常識が欠けている


 だが、親子もすぐに戦闘態勢になる。


 隙がないのは、分かる。


 ロイは機械ならではのリサーチ能力で個々人の癖や特徴を把握している。


 チームプレイだって初見の人間相手ならいくらだって手立てはあるが、それはコンピューターの速度が上回る。


「久々の三人で全力全開と行きますか……」


 正行は不敵に笑う。


「俺も爺に鍛えなおされたからなぁ……俺の剣術をお見せしましょう」


 秋水は、腰に差していた『神成』ほどではないが大きな日本刀を抜いた。


「では……カウントします……三、二、一……」


 三人は同時に走り出した。


 

 ロイは強敵であった。


 三人が全力で持てる武器で戦うが、足止めが精いっぱいだ。


 それを春平は地べたから薄れゆく意識の中で見ていた。



『早く、この牢獄からでなければ』と思うが、思えば思うほど、牢獄の棘は増える。


 同時に思い出すのは、戦場で敵国兵から言われた遺言だ。



「お前のような人間は、誰からも。どんなに誰かを思っても……誰からも……


 その直後、若き春平は刀を収め、持っていた拳銃で敵兵の顔を何発も、それこそ弾切れになるまで引き金を引いた。


 敵兵の顔面は無残な姿になった。


--今、思い出すことではない!


 戦争の痛み。


 沖縄同様に戦場になった豊原県で繰り広げられた幾多の戦い。


 その中で春平は文字通り一騎当千の活躍をした。


 味方からすれば、心強い援軍。


 敵からすれば、不気味な増援。


 だが、やがて、その両方から敵視される。


 当時の春平は、合理主義で無駄な戦死を嫌がった。


 逆に平和を掲げ兵として役目をしようとしないものも嫌った。


 無能だと判断すれば、容赦なく、あらゆる手段を使い、味方の上官だろうが敵の融和案すら殺した。



 呼気が荒くなる。


 目の前で、息子たちが戦っているのに、自分は牢獄から出られない。


≪苦しいだろう? 気持ち悪いだろう?≫


 牢の向こうで同じ姿をした別の自分が面白そうに言う。


「出せ!」


 と叫ぶ。


≪俺には無理だ……お前、本当に助けたいと思っているか?≫


 その声、言葉はとても冷たい。


「当然じゃないか⁉」


≪じゃあ、何で出ようとしない?≫


 反問する。


≪お前さん、本当は自分を不幸にした世界に『復讐』をしたんじゃないのか?≫


「何馬鹿なことを言っているんだ⁉ 秋水たち……」


≪『愛されない』≫


 この言葉に春平は息を飲んだ。


 もう一人の自分は呆れたように背を向けた。


≪我ながら恥ずかしいったらありゃしない。普段、あれだけ高言しながら中身がこんなのだとはね……≫


 唖然とする春平を無視して続ける。


≪お前ががないのなら、置いていく……俺自身でも容赦はしない……置き去りにする……吠えろ! 叫べ! 意地を見せろ!≫


 そして、振り返り言い放った。


≪それができないのなら、その檻の中で俺の姿を見ればいい≫


 その言葉が、春平の涙を何かに変えた。

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