第九章 機械が見る最後の夢 その5
秋水は石動の挑発に驚いた。
あのロイの強さは生き物の強さではない。
単純な兵器の強さでもない。
それは愛弟子自身が一番知っている。
挑発を行うリスクは高い。
しかも、背後の倉庫は化学製品で倒壊すると爆破する可能性がある。
石動にも実に不思議だが、リスキーな賭けをした。
普段は『石橋を叩いて渡る』戦術を取るが、今回はそれが効かない。
ならば、予測不能なものことをするしかない。
予測不能とは何か?
わずかな望みにかけること。
そのわずかな、希望は若さゆえかダメージから回復し、蠢いていた。
『あなたが、一番賢そうで似た顔にしたかった……』
そう言って空気弾を石動に発射した。
反射的に腕で庇う石動、前に飛び出す秋水。
だが、その秋水の前に意外な人物が割り込んだ。
「正行⁉」
正行は反射的に両の手を組んで、空気球をはじいた。
バレーのレシーブの要領だ。
この時、正行の目には、空気球がバレーの球のように見えた。
同時に阿佐ヶ谷夫人の言葉を思い出した。
「正行君。あなた、足の筋肉があるのに全く跳んでないわね」
「跳ぶ?」
場所は市営の体育館。
バレーのできない正行に阿佐ヶ谷・渋谷姉妹を教えていた。
他のメンバーは秋水と石動が教えいている。
阿佐ヶ谷夫人に言われても正行は疑問しかない。
「バレーで跳ぶというのは二歩で垂直にジャンプしてボールに合わせて叩くの」
「ようは、タイミングと高さね……お姉さんの言う通り、正行君はコツを掴めば出来ると思うんだけど……」
「はあ……」
その言葉が何度もリフレインしながら、正行は自分が高く飛ばした空気弾に向かい、跳んだ。
コンクリートの地面が鳴った。
『跳んだときは全身でバランスを取る』
『叩きつけるのではなく、手首のスナップを効かせる』
正行は空気弾を弾き飛ばした。
ロイの攻殻に当たり、鋼鉄の鎧が破損した。
それは、『奇跡』だった。
機械にとって『奇跡』はあってはならないことだ。
あの農作業ロボットプログラムから奪った空気弾は、本来は地中の作物を傷つけず、空気の圧力で汚れを取るものだ。
この時だ。
ロイの脳が反応した。
脳からアドレナリンが生成され、規定値を超えた。
--ようやく、解放される。
「親父!」
「老師!」
「爺ちゃん!」
三人が倒れている春平に駆け寄ろうとしたとき、ロイに変化が起こった。
ただの人型の機械が変形し獣のような姿になった。
「‼……」
その鋼鉄の尾が、何の前触れもなく秋水のわき腹を刺した。
いや、腹を狙ったのだろうが、寸前でかわしてわき腹によけた秋水がすごいのか……
『
ロイは冷酷に宣言した。
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