第九章 機械が見る最後の夢 その4
それは、わずかな、本当にわずかな綻びだった。
大抵の人間なら見逃す、わずかな苛立ちと怒りを含んだ感情。
その感情を石動肇は感じ取った。
「お前さんの最大の武器を教えてやる」
そう言ったのはローザリオ・テトラ・グラマンが去った数か月後。
戦争は終結した。
結局、勝ったのは敵側だった。
味方のカリスマ的総大将が何者かに暗殺された。
「あのやろぉ、身勝手なことやりやがって……」
ローザが暗殺したと決め込んで秋水は愚痴を言っている横で廃墟になった街で石動肇は虚しさを感じていた。
あたりを見れば、文字通り死体の山だ。
もう、何の感情もわかない。
子供も大人もいる。
散発的に銃弾戦の音が聞こえる。
綺麗にされた戦闘服もボロボロだ。
「お前さん、これからどうする?」
横で壁に背持たれて立っている秋水が煙草に火をつけて一服している。
「特に……」
「会社は?」
「友人が上手いことやっていると思います……」
「……そっか」
しばし、無言の時間が過ぎる。
死体の臭い、火薬の香り……
気が付いたら、石動も秋水から煙草をもらい吸っていた。
青い空に、煙草の煙が吸い込まれ溶ける。
一言、秋水が言った。
「なあ、お前さん。いろいろ貸したけど……」
「ああ、
装備していた手袋を外そうとしたが秋水が止めた。
「やるよ。お前に貸した武器、全部やる。むしろ、俺は欲しいものがある」
「は?」
体術や武器の扱い方を教えた男、師に当たるだろう、が弟子になる自分に何を望むのだろう?
「お前の感受性だ」
「?」
何を言っているんだろう?
「俺の家は、元から暗殺者の家系でな……どうも、殺すことを実行することには鍛えられるが、その前の駆け引きが途方もなく下手だ。親父が、その典型で、自分の意が通らないと子供のように誰構わず八つ当たりするんだ。外面がいいから、みんな騙されているけど……」
二本目のピースを出しながら秋水は続けた。
「おかげで、ウチはいっつも貧乏くじだ。猪口さんって人が、これまた狡猾な人でさ、息子のほうはまだ、マシだけど酷いものだった……だから、家出をした……」
ここまで自分の過去を秋水が語るのは初めてだ。
「だから、俺のサポート、早い話が相棒になってほしい。俺は親父のような滅私奉公は一切ないからな」
そう言って、秋水は箱から煙草を一本出して石動に吸い口を向けた。
少し迷い、石動は口に咥えた。
手を放し、丁寧に秋水がマッチで火をつけた。
いつの間にか、周囲は夕焼けに染まっていた。
「おい、機械もどき……いや、人間もどき……お前は何者だ? 神か? それとも、悪魔か?」
わずかな火種を煽る。
大火になるように、風を立てる。
『自分は神でも人間でも機械でもない……完璧なる存在になるべく存在』
わざと冷笑する。
小馬鹿にするように笑う。
「神でも人間でもない……その時点で中途半端なんだよ! この鉄くず!」
石動の背中に冷や汗が伝う。
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