第九章 機械が見る最後の夢 その3

「何だよ! あんなに大見得切っておいて気絶する⁉」


 手下相手の秋水は愚痴をこぼした。


「親父、愚痴言っている暇あったら倒せ!」


 正行が怒鳴る。


 装甲が固く、正行が持つ真に鉄棒の入った白樺の木刀がボロボロだ。


「何だよ⁉ この蟹みたいなの‼」


 正行も愚痴を言いだした。


 だが、石動は、その言葉に「あ!」と何か思い浮かんだ。


「おやっさん、『土蜘蛛』持っていますか⁉」


『土蜘蛛』とは、敵の足元に滑らせて小さな爆破をさせる、平野平家に伝わる武器である。


 ただし、致命的な攻撃法ではなく、あくまでも相手の威嚇用である。


 理解ができないが、秋水は言われたように袖の下に隠したロープ上の何かを『蟹みたいな奴』の下に滑り込ませた。


 数秒後。


 BON、BON!


 と爆発音がするが、火柱は小さい。


「あーー!」


 蟹みたいなものは衝撃でひっくり返った。


 正行が遠慮なしに踏みつけると、活動を停止した。


「ナイス! ナタニエフピンク!」


「……その言い方、止めてもらえませんか?」


 だが、形勢逆転である。


 秋水が『土蜘蛛』で機械の蜘蛛をひっくり返せば、石動は電磁警棒で正行は踏みつけて、動力を壊す。


「おっもしれぇえ!」


「遊びじゃないぞぉ……」


 興奮する正行に、石動が注意する。



 最後の一体を始末する。


「はい、おっしまーい」


 景気よく秋水が断言する。


 そして、振り返る。


 あのロイがいた。


『あの老人より、あなたが方の脳のほうがよさそうだ』


 その言葉に秋水は中指を立てる。


「うるせー、あの爺は、俺が最後に倒す獲物だったんだ! それをおめぇが盗み食いしやがった分際で生意気言うな!」


 ロイは落ち着いていた。


『あの老人に、その価値があるとは思えません』


 正行が「黙れ!」と走りながら突っ込んでいく。


「あ」


「バカ!」


 石動が止めようとし、秋水は頭を抱えた。


 あっさり、木刀を掴まれ抑えられた。


「うっ……くっ……」


 前に押し出そうにも、後ろに引こうにも刀身部分を掴まれて動けない。


『筋肉を鍛えるためか、正しいフォームにするためか……中に十.二キロほどの鉄棒を入れていますね……正行さん、あなたは実に理想的な肉体をしているが、それを百パーセント出そうとしていない……何故です?』


「うるせー、機械もどき!」


 持っていることをいいことに、正行は思いっきり背側蹴りをロイの腰椎に当てようとした。



 正行の蹴りは師匠の春平曰「大砲のようなもの」と評した。


「連続蹴りには不向きだが、一発、一発の威力がでかい。体型と、秋水むすこの『一撃必殺』の思想を受け継いだんだな」というコメントもしている。



 だが、ロイの攻殻には何らダメージはない。


『ならば、これはどうでしょう……』


 その瞬間、白樺の柄から正行の腹部に強烈な衝撃が走る。


『簡単な螺旋運動とタイミングの話です。自分のようなロボットでも出来る芸当です』


 この言葉に石動も秋水も唖然とし、正行は腹部を押さえて苦痛にうめいた。

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