第九章 機械が見る最後の夢 その2
『残念です……人の虚しさを知っているあなた方なら分かり合えると予測したのに……』
その瞬間、背後の昆虫ロボ(?)が襲い掛かってきた。
正行は木刀で、秋水は拳銃で、石動は電流の流れるスタン手裏剣で応戦する。
残るは春平とロイだけになった。
「悪いが、最初から全力で行かせてもらう……」
そういうと、足を半歩下げて、利き手を刀の柄に添えた。
居合の形だ。
ロイは無反応だ。
騒がしい周りとは対照的に静かになる。
一気に春平は駆けだした。
同時に刀を抜き、左腕の関節部を一閃……したはずが……
斬れない。
それどころか、抜けない。
ロイは日本刀を悠々と持つとゴミを捨てるように春平ごと、地に落とした。
『それは、あなたの本気ですか?』
「!……」
『あの居合には確かに名人級の技能があったのですが、わずかにバグ……何かしらの迷いと言いましょうか……それがあった』
「……」
--俺の
春平は内心毒づきながら、焦った。
ならばと、棒手裏剣や爆薬で攻撃するが一切効かない。
何かが自分の中で邪魔をする。
--あいつは、俺だ
意味が分からない。
死力を尽くし、それでも倒れない。
秘伝の技も繰り出した。
だが、敵は無傷だ。
多少、装甲に傷は与えたが、すぐに治るレベルだ。
『非常に残念ですが、今のあなたには、殺す価値はない』
そういうと、ロイは腕を上げ、何かを繰り出し、それは、老人の腹に当たった。
臓腑が吐き出されると思うほどの衝撃が受け、意識は消えた。
今から、どれぐらい前だろう。
当時、十歳の正行が稽古着を着て、玉砂利の庭で正座をしていた。
子供にとっては苦痛だろうが、幼い正行は我慢していた。
師匠になった祖父は同じようにして心得を伝授していた。
「いいか、正行。これから、お前はどういう道を選ぶかはお前次第だ。でも、一度決めたことは、守ること」
「はい」
その言葉を今、訂正したい。
逃げたい。
怖い。
嫌だ。
でも。
でも。
≪よう、久しぶりだな≫
その声で前を見る。
目の前には自分が立っていた。
自分そっくりの自分ではない、自分。
周りは白い空間だ。
≪お前、みんなを助けたいんだろう?≫
「……」
≪なら、封印を破れ≫
「封印? お前のか?」
立っている自分は大笑いをした。
≪お前、自分がどういう場所にいるか分かっているのか?≫
その瞬間、目の前に茨の檻が彼との間を隔てた。
≪俺を封印したつもりだろうが、実際は、お前がお前を封印したんだ≫
「……」
どうしていいか分からない。
胸が痛い。
涙が出る。
目の前の自分、それは過去の傷。
戦争で多くの敵を殺し、人を殺すことに虚しさと無力さを感じ、その痛みと辛さを子供の秋水に与えた。
それが、余計、罪を重くした。
檻の上に様々な罪が重くのしかかる。
--助けてくれ……
頬を幾つもの涙が通る。
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