第八章 目覚めるのは『神』か『人間』か? その6

 ナタニエフレンジャー。


「あのぉ、何? そのナタなんちゃらレンジャーって……?」


 すると、得意満面であろうブラック役の秋水が胸を張って宣言した。


「人々の愛と勇気と希望とベルマークと各大手家電量販店のポイントとスーパーのレジでもらえるポイントをわけ与える、ナタの戦士!」


 意味が分からない。


 愛とか勇気とかは、まあ、恥ずかしいが分かる。


 そのあとのベルマーク云々からは理解が追い付かない。


『そういえば、秋水って毎年パン祭りの時期になるとポイントシールを集めるけど、最後らへんで忘れて毎年悔しがっていたな……』


 もう、訳が分からん。


 さっさと背を向ける。


「待て! 老人!」

 

 必死で止める、ブラックこと秋水。


「あのな、俺はお前らの茶番に付き合い程、暇じゃない。俺には……」


「『星ノ宮ここの全て』があるんでしょ? お爺ちゃん?」


 黄色いマスクを外して正行が問う。


「バカ! マスクを外すな!」


 今度はブラックこと、秋水が頭を抱える。


「……」


 孫の純粋で真っすぐな目線に、祖父は合わせることができなかった。


 自分が負ければ、星ノ宮にアメリカから原子爆弾が落とされ、多くの死傷者が出る。


 今、この瞬間の会話すら、アメリカの超高性能マイクに拾われているかもしれないし、宇宙から人工衛星で監視されているだろう。


 安易に言葉にできない。


「俺は、無駄死には御免です。老師、あなたには大変お世話にはなりましたが、玉砕覚悟であるのなら止める術を俺は持たないです。でも、それは、あなたが負ってきた傷を孫に与えることです」


 それまでスマートフォンをいじっていた石動が電源を落とし体ごと春平に向けて宣告する。


「……正直に言う。勝算はないが無駄死にするつもりもない」


「だから、玉砕覚悟か……」


 ブラックの仮面をつけても秋水が鼻で笑った。


「『死ぬと決めた奴が生き残る』? ……んな訳ない。『戦場で死ぬというのは≪生≫と≪死≫を紙一重で見切り、ありとあらゆる知恵と工夫と努力を尽くしてから言うことで安々と使っていい言葉ではない』と言っていたのは何処のどなたで?」


「爺ちゃん、俺たちは爺ちゃんの味方で、力になりたいんだ!」


「しかしな……」


「まあ、足手まといにはなりませんよ。むしろ、俺たちは露払い程度ですが老師を、あのガキのところまではお連れしましょう」


 石動が言い添える。


 確かに、本体に行く前に体力は温存したいのは事実だ。


「そのための……ナタニエフレンジャー!」


 再び、決めポーズをとる。


 相も変わらず、ピンク役の石動はポーズ取らないし、正行は慌ててポーズをとる始末。


 だが、春平の口端に笑みが浮かぶ。


「分かった……どうせだ、地獄まで行こうじゃないか?」


「あれ? それは遊園地の間違えでは?」


 石動も笑う。


 すたすた去る石動と春平。


 残った秋水と正行も慌ててポーズを解除して走り出した。

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