第八章 目覚めるのは『神』か『人間』か? その4

『ロイ・フィリップ』


 生まれた時から、この子供は天才だった。


 早熟の天才で五歳で親の名義で無断で株式投資をして大資本家でもかなわないほどの大金を手に入れた。


 母親は難産の末、子供に乳を与えることもなく亡くなった。


 残った父は、ロイの才能を褒めて伸ばそうとした。


 彼もまた、世俗が言う「天才」ではあったが、ロイの足元にも及ばなかった。


 この家族には共通点があった。


『人の心が分からない』


 親子はロイの資本をもとに、南方の国を



 現在。


 猪口の言葉に正行は飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。


「国を買うって……可能なんですか?」


 猪口に代わり秋水が答えた。


「不可能ではないね……実際、債務超過や債務不履行でとんでもないインフレ状態になっている国なんざ探せば無数に出てくる。しかも、発展途上の国が多いから『融資』なんてすりゃあ、実質、支配権も握ったも当然」


「……で、だ。この親子は、経済破綻寸前のトアル国でとんでもない実験をしていた」


「実験?」


 猪口はすぐに答えず、正行の作ったお子様味覚のコーヒーを飲んだ。


 少し溜息を吐いて、続けた。


「『自由意志と進化を持つ機械』の開発。正確には兵器の開発だな」


 平野平親子も、石動肇も沈黙する。


「……で、でも、そこまで資金はないでしょ? いくら資金があるとはいえ……それに、アメリカとかEUとか分かったら……」


 自分の言い訳のように正行が言う。


 それを猪口は悲しげに首を振った。


「逆だ……一応、アメリカもEUも……当時はECか……認知はしていたが無視をしていた……というか、逆に資金援助や技術提供をしていた」


「え?」


 これには秋水も驚くが、すぐに答えが分かった。


「そうか、核に代わる殺人兵器にするためか……」


「核を使えば世界中から反発が起こる……進化、学習をして敵味方を判別する兵器が出来れば損害は少ない」


 吐き捨てるように猪口も頷く。


「クソだな……」


 石動も珍しく怒りを表しにした。


「もっとクソな話が続くぞ……進化、または学習させるには人の脳みそが一番いい。ただ、消耗も激しい。だから、実験に使ったのが……」


 その瞬間、正行は耳を両手で閉じた。


 だが、聞こえた。


「トアル国の国民だ」


 さすがに百戦錬磨の秋水も拳を強く握った。


「で、そのロイ少年は……もしや……」


 石動の質問に、これも猪口は頷いた。


「今、あの機械のメイン頭脳になっている……親父さんの脳みそはプロットタイプで使われて破棄された……」


「……」


「現在、最強の殺し屋に親父を選び、その脳で『最強の兵器』になりたい少年か……現実にいたらぶっ飛ばすな」


 秋水が苦々しく言う。


 猪口は最後のコーヒーを飲み終え、告げた。


「ここからは盟約だとかは関係ない……嫌だったり、勝機を見出せなければ、聞かぬ存ぜぬでいればいい……」


 その言葉に肯定するものは、そこに誰もいなかった。



 そして、寝ているはずの春平もその言葉を聞いていた。

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