第八章 目覚めるのは『神』か『人間』か? その2

 高弟たちは、それぞれ刀を持つことを許されている。


 祖父の代の人たちなので秋水よりも年上だが、石動肇からして『敵にしたくない』と言わしめる戦闘力を持つ。


 彼らが一人一人、道場に入って剣を交える。


 気合の声や叫び声が聞こえる。


 だが、出てくるのは衣服が乱れ、荒い呼吸をし、血を流す弟子たちである。


 ある者は流血しているにもかかわらず、井戸水で血を流すとそのまま食べ物を食べまくり寝た。


 ある者はぶっ倒れ、寝る。


 ある者は食べることには食べるが、トイレに行き嘔吐した。


 あれだけ、文字通り山のように作った料理が面白いほど、魔法のように消えていく。


 正行も目覚めると、目の前の握り飯とみそ汁をほぼ飲み込み、再び倒れて寝た。


 量が少なくなってきた。


 石動はネットや電話でラーメンやパーティー用の料理を注文する。


 専用のスクーターやワゴン車で料理が届けられるが、即消える。


 

「あー、やっぱ、こーなるよねぇ」


 軽い笑い声で秋水は弟子たちの倒れた状況を見ていた。


 十人以上いるが、正行を抜かして、一人一人が事件などのトラブルに巻き込まれる職業についている。


 故に経験や知識は、一般人よりあるし、正行たちまでとは言わないが、それなりの体力がある猛者たちである。


 石動は不安になった。


 彼らと何度も試合形式で戦ったが、何度も苦戦を強いられた。


 トリッキーな技を使うものや猪口直衛のように心理戦が上手な者から秋水たちのように力技で多種多様。


 道場内の様子は分からないが、彼らの貪欲な食欲と睡眠を見て、春平老人にとっては、まだ『準備段階』なのかも知れない。



「石動君、来なさい」


 名前が呼ばれて石動は深呼吸をして道場ヘ足を向けた。


「大丈夫だよ、親父のことだから五体満足で戻れる」


 慰めるように秋水が背中に声をかけた。


--『生きて』ですよね?


 そう聞きたかったが、無視した。



 道場の中には春平が一人、家宝である名刀『神成』を持って立っていた。


 老人が持つには大ぶりな剣である。


 秋水が身に着ければ似合うが、アンバランスだ。


「君とは、初めて戦うね」


 春平は気軽に声をかけてきた。


「はい……」


 低い声だ。


 全神経を老人に向ける。


 指の動き、足の角度、目が何を見ているか……


 相手も、それなりに観察しているだろう。


 静かに、構える。


 老人は両手を下げている。


 呼気を吐く。


「そんなに気負わなくってもいいよ」


 だが、この言葉に石動は反応しない。


 春平は笑った。


「いいねぇ、正行は、こういうところで油断するんだ」


 その瞬間、石動は五指から棒手裏剣が飛ばした!


 特殊な加工がされ人体に刺さると電気が走り、敵は痺れ、戦闘不能になる武器だ。


 だが、その先に、春平は消えていた。


「君の弱点を一つ言っておく。『相手を殺そうとしない』ところだ」



 その瞬間、世界がブラックアウトした。

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