第七章 頑張る商店街の皆様たち その6
平野平春平が、その場についたとき。
自衛隊員たちも、商店街のみんなも赤い液体をつけて地に付していた。
「……う……嘘だろ?」
老人の目に涙が浮かぶ。
だが……
呻きながら彼らは起き上がった。
しかも、多少頭が痛いのか片手で抑えているが元気そうだ。
春平が駆け寄る。
「大丈夫か⁉」
「ああ……何か訳のわからんドローンから発砲されたと思ったら、急に眠くなったね……」
頭を撃たれたインド料理屋の店主も何度か頭を振り、夢と現実を分離している。
≪予想より三十秒早かったですね≫
その言葉に、自衛隊も商店街の者も、あの傭兵たちも恐れ戦く。
だが、一人だけ前に出た男がいる。
平野平春平だ。
もう、涙はない。
「どこに隠れていた?」
ひどく低い声だ、と自分でも思う。
≪簡単です。光学迷彩であなたを待っていました≫
声は実に淡々としていたが、安心させるように声色を変えた。
≪あなたの守るべき人たちには簡単ですぐに起きる液体麻酔薬で眠らせました≫
「貴様は何者だ?」
≪自己の言語化というのは半分機械の自分では人間相手に簡単に説明できませんが、あなた方人間が本来、あと数百年は身の丈に合わない『原子爆弾』というものを一人の天才というバカを無視しなかったせいで今や世界が壊滅へ向かうように、自分はあなたたち人間に成り代わり支配するための存在だと認識しています≫
「人間の家畜化か滅亡か……話し合いでケリが付く案件じゃあねぇなぁ」
≪ええ。そうですね……≫
春平は白髪頭をポリポリ掻いた。
「今の俺は基本的に気楽な隠居爺で平和を愛する市井の人間だが、俺の大事な仲間を恐怖に陥れたお前だけは自分の命を賭しても許さん……」
その言葉に、その場にいた誰もが背筋が凍る。
温厚な優しい男の言葉ではない。
その仮面に隠した本性が現れたのだ。
≪結構なことです……しかし、残念。あなたの命を壊して脳を頂きたいのですが、今日は自分に面会したい人がいるので、その人に会い、自分を貴方用にカスタマイズしてもらう予定です≫
「では、何時、何処がいい?」
≪そうですね……追ってこちらから連絡しましょう。その間、自分は、カスタマイズなどで何もできないでしょうし、そこにあなた方が来られても困る≫
春平は冷笑を浮かべた。
「……ま、当然の決断だ」
≪こうしましょう……あなたの知り合いに『石動肇』という男がいたはずです。彼はコンピューター周りに詳しい。彼にメールであなたに挑戦状を送りましょう≫
そうすると、大型ドローンは光学迷彩で再び姿を消した。
音も聞こえない。
サイレンサーモードだろう……
春平は大きなため息を吐いた。
--やれやれ、地獄への旅路が早まったな……
この時には、普段の春平に戻っていた。
だが、後ろを見ればおびえた人々。
彼らに春平は謝罪した。
「ごめんなさい」
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