第七章 頑張る商店街の皆様たち その4
「は? 会合がない?」
春平は、普段使っている会議室が無人なのに驚いた。
自分の集合時間に間に合うように十五分前には椅子に座り資料や、すでに来ている仲間と雑談をして、婦人方が大きなペットボトルのお茶から紙コップへいれたものを持ってきてくれる。
だが、誰もいない。
不思議に思い受付に行くと事務の女性が「今日は会議室での使用は一件もありませんよ」と言った。
確か、前の学会では今日、この場所でやるはずだった。
何か引っかかる。
靄がかかる。
本来なら、あまり使いたくないが秋水や正行が「万が一にもっておけ」と半ば強引に買わされたスマートフォンを使い、ダイヤル帳を出して、仲間の一人に電話をかける。
『はいはい……』
「谷池さん、こんにちは」
『ああ、この声は平野平さん……どうしました?』
「いや、今日は会合が……」
すると、相手は意外な答えを口にした。
『え? 一昨日、あなたのほうから≪資料作成等で時間が欲しい≫とキャンセルされたじゃないですか? 何か重大な発見をしたとかなんとか……で、僕がみんなに伝えて、中止になったんですよ」
春平は、そんなことを言っていない。
そもそも、スマートフォンにも触ってない。
その時、スマートフォンから臨時ニュースの音がした。
使い方が分からない春平は、「すいません」と一方的に通話を切り、臨時ニュースを見た。
--星ノ宮橋が何者かに爆破される
その文字を見た瞬間、春平の顔から文字通り血の気が引いた。
敵は自分ばかり狙っていると思っていた。
その考えは、平和というぬるま湯に浸かっていた自分の惰性だった。
「春平さん! ニュース、ニュース!」
図書館のある階から『婿殿』が転がるように階段から降りて着た。
「『婿殿』! 大急ぎ、商店街に戻るぞ!」
駐車場に止めたワゴン車に乗り込むと、大急ぎで来た道を戻る。
役場の広報メガホンや警察の車が「現在、星ノ宮には外出禁止令が出ています。不要不急の用事以外は家の中で待機をお願いします」と言っている。
「俺のせいだ……」
この言葉をつぶやきながら、己の拳で春平は額を何度も叩いた。
助手席で苦悶する老人を見て、『婿殿』は問うた。
「あなたは、何者なんです?」
「聞いてないのか?」
目だけ運転手に向ける春平。
その眼光は普段の穏やかな老人とは思えないほど鋭い。
視線だけで心臓を射抜かれそうだ。
狂気と暴力が宿っている。
「……はい」
「じゃあ、端的に言うなら、俺は『鬼』だ」
「『鬼』?」
だが、その疑問はすぐに吹き飛んだ。
目の前の小さな橋も爆破されていた。
幾人かの警察官がカラーコーンなどで規制をしようとしていた。
「『婿殿』、別の道を……」
「無理です! このまま、飛びます!」
「え⁉」
宣言を終えると『婿殿』はアクセルを底が抜けるように深く踏み込み、ギアを最速にした。
突入する軽ワゴン車に警官たちは逃げまどい、カラーコーンを吹っ飛ばして……
軽ワゴン車は宙を駆け、急ブレーキでドリフトになり停車した。
幸い、対岸には誰も車もなかった。
そこから、春平は飛び出すように駆けだした。
中の運転席では『婿殿』が目を回していた。
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