第六章 そして、再び日本へ・・・ その6
最奥の扉は意外にもすんなり開いた。
だが、開けた瞬間、その場にいた人間も犬も、あまりの悪臭に顔をしかめた。
意外にも扉を開けてもセンサーやアラートは鳴らず、すんなり入れた。
換気の意味も込めて扉を全開にすると、そこには軍服を着てヘッドギアをした一人の男が座っていた。
気絶しているのか、寝ているのか、ひざ掛けから脱力した腕を出している。
フォール軍曹がゆっくりヘッドギアを外す。
男は口から泡とよだれを出し、鼻から血を流し、目は滂沱と涙が出ている。
問題は、下半身だ。
トイレにも行かなかったのか、排泄物を垂れ流し、それらがパソコンの熱で発酵し、昭和のトイレの臭いである。
「猪口さん、これ!」
フォールは軍服に縫い付けられた名前を見た。
『アヴァン・ゲーソン』
石動肇の会社『アイトライブ』にプログラミングを依頼して、殺された人物のはずだ。
盲目だが、高林もゲーソンの脈に触れた。
「……生きています! 少し弱いけど、確かに脈を打っています」
フォールが肩を叩くが反応はない。
細かった推理の糸がだんだん、具体的になってきた。
アヴァン・ゲーソンは、パヴァリアか八咫烏の一員で、かつて盗んだ意思を持つ兵器を強化するためか、はたまた、未完成な部分を完成させるためか無関係である石動の会社にプログラミングを依頼。
彼は、その開発責任者なのだ。
では、その上には誰がいるのだろう?
目的は平野平春平の脳だ。
方程式を組み、解いたとき。
猪口は大急ぎで気絶しているであろうアーヴァンを退かして、目の前のパソコンのキーボードを叩き始めた。
「頼むぞ、頼むぞ……外れろ、外れろ……」
それは単なる願いを超えて、呪詛のような言葉になっていた。
そして、猪口の願いは……外れた。
「猪口さん?」
猪口の行動を心配したフォールは話しかける。
少し考えて、猪口は口を開いた。
それは命令に近い。
「フォール軍曹。あなたは米軍の人間だ。今から、日本の陸上自衛隊豊原駐屯地にいる『宇都猛』少佐に連絡をしてください。彼が出たら、すぐに、自分に渡してください。何かしら理由を言ったら、こう伝えてください。『日本が壊滅したらお前のせいだからな!』」
その迫力にフォールは大急ぎで外に出た。
ここはオンラインは有線であり、無線のWi-Fiなどはない。
「誰です?」
状況がはっきり見えない高林が聞いた。
「ちょっと変わった経歴を持つ陸上自衛隊の少佐だ。数年間、お前が渡米した後に来た元刑事だ」
「……刑事から自衛官?」
「日本の法律が変わって警察官から自衛隊に転職すると前職の階級と同等の地位や給料がもらえるようなったんだ……奴は、その第一号だ」
猪口は高林の腕をひきながら早歩きで説明した。
『お久しぶりです! 猪口刑事!」
スマートフォンの向こうで敬礼しているであろう、元部下の声を聴く。
元気そうだ。
だが、積もる話は後回しだ。
「要件から言う。星ノ宮市にとんでもない兵器がやってくる。それを破壊してくれ!」
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