第六章 そして、再び日本へ・・・ その4

 徐々に猪口の脳の中で『解』が出来ていそうだ。


 まだ、代数が多いが、この街に来て気になることがあった。


 ドアがノックされ、リサが「所長、頼まれていた資料が出来ました。入ってよろしいでしょうか?」と声をかけた。


「どうぞ」


 高林が許可するとジャンパースカートの女性が入って三人に資料を渡した。


 ほとんどは、日本で石動から聞いたことだが気になる点も出てきた。


 最近の動向としてパヴァリアの一員が人身売買で逮捕された。


 思春期前の子供で、未だ行方不明。


 そこに猪口は嫌な予感がした。


 ほんのわずかな、か細い繊細な糸が様々な言葉や見たものが組み合わさり、そこに経験がタペストリーのように編み込む。


 歪んでいるし、外れなら外れでいい。


 猪口は重々しく言った。


「『魔女の博物館セイラム・ギャラリー』に行きませんか? 調べたいことがあるのです。あと、武器も必要になるかも知れません」


 その重さに、高林もフォールも頷いた。


 

魔女の博物館セイラム・ギャラリー』の入門で陽気な検問官が声をかけようとしたが、三人の異様な熱気に押されるように手早く入館を許可した。


 フォールが館長に頼んで、人の出入りを職員を含め今日一日禁止させた。


 ただでさえ、人の出入りが少ない博物館は男三人だけがいる。


 小さい博物館だが、それ故に無音だと不気味さが増す。


 明かりは全部点けてもらったが、それでも、昼なお暗い。


 猪口は館長から印をつけてもらったパンフレットを熟読していた。


 そして、指でなぞると急に歩き出した。



「猪口さん、どうしたのです?」


 フォールが問う。


「敵の秘密基地が分かるかも、知れません」


 猪口はパンフレットを見せた。


 高林は盲目もため見えないが二人の会話を真剣に聞いている。


「パヴァリア、キリスト教にとって魔女は悪であり払わないといけない存在でした。だから、ここに邪を払う何らかの呪いを仕掛けたと思ったんです」


「へえ……猪口さんって魔術とか詳しいですね」


「警察に入庁してからロンドン警察スコット・ヤードで中期留学をさせてもらってな……あそこは真面目に魔法などの非科学的なことを専門で扱う部署があって、一時期、俺はそこに配属されたんだ。嫌でも覚えてしまうさ」


 高林の歓心を猪口はそっけなく返す。


「で、目的の場所は?」


「キリスト教で邪を払うのは五芒星です……所長にマンホールの場所を聞いて繋げると五芒星になったんです。で、今、俺たちがいる場所のマンホールは、その中心に位置します」


 猪口は特別に借りた、マンホールを開ける器具を開けた。


 不快な臭いはない。


 三人と一匹は協力してマンホールを下った。



 そこは、人一人が余裕で立てる巨大な地下電線に出た。


 ボストンの血液であり、止まれば、大惨事だ。


 猪口とフォールは手掛かりを探そうとしたが、意外に見つけたのは盲目の高林だった。


「右に行きましょう」


「なんで分かるの?」


 猪口が不思議がる。


 高林は思い付きで行動する人物ではない。


「下に彫ってあるんですよ」


 白杖で高林はコンクリートを叩いた。


 猪口達はしゃがんで見ると確かに星印と右への矢印がある。


 ただ、それは小さく見落とされがちだ。



 約五分ほど歩くと、整備用と思われる扉が現れた。


 フォールが手持ちの拳銃を取り出し、鍵穴に銃口をつけて数発撃った。


 金属独特の甲高い音が地下に響く。


 扉を開ける。


 目の見える猪口とフォールは驚いた。


 計器のいたるところにメモ書きが貼られている。


 その上からスプレーで『神は偉大なり!』と書かれている部分もある。


 猪口がそのうちの一枚を取ったが、意味が分からなかった。

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