第六章 そして、再び日本へ・・・ その3

 少し埃っぽい応接室に、男が三人いる。


 猪口直衛。


 高林道人。


 フォール・ドーマン。


 

 三人は情報を秘密にすることを約束しあうと、互いの情報を出し始めた。


「……ヤタガラスとパヴァリアが手を組み、その春平という老人を狙っていると……」


 フォールは少し考え、意を決した。


「実は、我々軍や政府もパヴァリアには手を焼いています。我々の極秘兵器の試作機を盗まれました」


「無人兵器ですか?」


「ええ……ハドソン夫人の理想と、今の我々がいる現状はあまりに乖離しているのです。もう、引き返せません」


 沈痛な空気が重い。


 理屈は猪口も大人だからわかる。


 しかし、ハドソン夫人の言葉はそれ以上に重い。


--俺たちは正義の味方じゃない


 自分に言い聞かせる。


「大変失礼な質問をしますが、アメリカ軍は件の兵器が完成されたらどうするおつもりですか?」


 猪口が質問する。


「核兵器を使用します」


 その言葉に日本人である猪口も高林も閉口した。


「最新鋭AI搭載の秘密兵器です。被害は少ないほうがいい」


 何かを叫びたかった。


 あの惨状を学んでいる。


 知っている。


 だから、この目の前にいる欧米人に日本人として怒鳴りたかった。


 それが、喉で止まる。


 吐き出して何になる?


 問題は、兵器であって彼個人ではない。


「……私たちが解決します」


 猪口は宣言した。


「もしも、私たちがあなた方の秘密兵器を壊せなかったら核でもなんでも落とせばいい。でも、倒せたら投下寸前でも戻してください」


 猪口とフォールは視線を合わせた。


 高林はいささか戸惑っている。


 折れたのは……フォールだった。


「わかりました」


「しかし、何で闇社会の首魁を殺して、どういう意味があるのでしょうね?」


 無理やり空気を変えるように高林は口を開く。


「月と太陽……完璧なる神……」


 フォールが呟く。


「完璧なる……神?」


「キリスト教以前、魔女たちは隠喩や占いに月と太陽を多用していたんだ。一般展示されてないが『魔女の博物館セイラム・ギャラリー』の占い本などには多く出てきて、皆既日食は男と女が交わり新たな生命を宿す神が下りるとされていた」


 高林にフォールが言う。


「八咫烏たちの最終目的は『神になる』……か。下らねぇ」


 猪口が吐き捨てる。


「だから、雌雄同体のローザ・テトラ・グラマンドを富士樹海で殺した……つまり、彼女は何らかのヒントを持っていた可能性がある……そもそも、何で日本に……」


 そこまで小言を言い、猪口がフォールに言う。


「可能な限りで結構ですので、その無人兵器がどのようなものか教えてもらえませんか?」


 この無茶ぶりにフォールは苦笑した。


 仮にも軍人に他国の人間が「軍事秘密を教えろ」と強要しているのだ。


 時間にして五分。


 フォール軍曹は頭を抱え、やがて、顔をあげた。


「人型兵器です。それ自体に今まで以上の何か強力な力や俊敏さはありません。しかし、内蔵されている武器が強力な空気銃で下手なフルメタルジャケットの弾丸より殺傷能力があります……小さな特殊鉄球を核にして自在に空気の球を作り相手にぶつけるものです」


 その言葉で猪口は一礼して、部屋の外に出た。


 スマートフォンを出し、正行の電話番号にかける。


 日本は深夜だが、正行に猪口はある伝言をした。

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