旧友との推理合戦 猪口、アメリカで推理する

第六章 そして、再び日本へ・・・ その1

「おう、おはよう。リサにミセス・ハドソン」


 少し驚く猪口に少女のような女性はすぐに近づき、「初めまして、私、リサ・ハセガワ・リードンです! 所長の秘書兼助手をしています!」と流ちょうに日本語でいう。


「君、ご両親が日本人?」


 驚きつつ猪口も日本語で聞く。


「いえ、母方の祖父が日本人で移民です。所長から……あ、高林さんから色々聞いています。名推理できる刑事さんだとか……⁉」


 可愛い子がキラキラした目で見つめられると還暦を過ぎた男は戸惑う。


「あー……まぁ、うん……」


 猪口は誤魔化すように首にあるチョーカーを指さした。


「かわいいチョーカーだね。それ、俺の孫娘にプレゼントしたいんだけど、どこに売っているのかな?」


「これ、所長がプレゼントしてくれたんです」


 少し照れながら彼女は答える。


「駄目よ、リサちゃん。猪口さん、驚いているじゃない……私は、ハドソン・バール・ノーソン。ここの大家で、この事務所の雑務担当ね」


 その言葉に高林は苦笑する。



 一通り、自己紹介が終わると実務連絡になる。


 食事していた卓でリサが数枚の紙を出す。


「アナハイム社の名簿を隈なく調べましたが、少なくとも、この五年前で『アヴァン・ゲーソン』という男性職員はどこにもいませんでした」


「なんだって?」


 猪口は不思議がる。


「それは本当なのかい?」


「はい、各セクションまで調べましたが……」


 数枚の名簿を見る。


 確かにいない。


 と、疑問が沸いた。


「リサちゃんは何者なんだい?」


「元は名うての有名企業のホワイトハッカーだよ……ようは会社のセキュリティーガードを担当していた。それを俺がヘッドハンドした」


 その言葉にリサは顔を赤らめる。


 彼女も一目ぼれだったらしい。


 猪口はハドソン夫人が入れたコーヒーを飲んで、一度席を起った。



 アパートの外で日本にいる石動に電話をかける。


 日本時間では、深夜帯だ。


 不機嫌に石動は出た。


 猪口は石動の依頼人が存在しないことを話した。


 意外なことに石動は納得しているみたいだった。


「なるほど、理由はわかりませんが、何かを目的に俺たちに積極してきた可能性がある……そうなると、新聞記者も怪しいですね。こちらも、いろいろ当たります」


「感謝します」



 猪口が戻ると会議は再び再開された。


 とりあえず、爆発されたアナハイム社を見に行こうという話になり、リサとハドソン夫人を残して、二人はタクシーで郊外へ向かった。



 二人と一匹は茫然とした。


 事故発生から一週間程するが、未だにビルは崩れる危険をはらみ、書類やプラスチックが焼き焦げたにおいが充満している。


 立ち入切り禁止区域にはカラーコーンと警戒線が張られているが、そこを黒い袋で包まれた遺体が救急隊や消防士らによって運ばれている。


「猪口さん」


 名前を呼ばれ見ると、高林の目から涙があふれ出ていた。


「目が見えなくても、涙は流れるんですね……」


 死亡者には女性がいた。


 託児所に預けられた子供もいた。


 彼らも犠牲になった。


 改めて、猪口に強い怒りと憎しみが沸いた。


 その奥底で彼の脳は必死に犯人捜しのための問いと解を求めいた。

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