第四章 三つ足の烏(からす)は神の夢を見る その3
「俺が今日、ここに来たのはこれを春平さんたち、特に石動君に聞いてもらえると嬉しいものだ」
そう言って猪口は胸ポケットから慎重に龍野家から借りたカセットテープを出した。
若い正行には人生初のカセットテープだ。
「これが、カセットテープ……」
「昔は、これでパソコンからゲームができたんだ……パソコン自体高嶺の花だったが、ドラクエなんかも最初の頃のはファミコンと同時期発売されていた」
秋水はしたり顔でいう。
「俺の会社も最初は、この手のプログラミングからなんだ」
石動は微妙な顔だ。
「まさか、本格的な会社の立ち上げの頃に『平野平秋水』という化け物親父に出会うなんて思ってなかったがな……」
その言葉に師である秋水はにやにやした。
「で、主殿……これを聞いてどうせよと?」
春平は疑問を持ちながら猪口に問う。
「まあ、まずは、パッケージを見てください」
そこには、三つの爪を持つ烏と円の中に月と太陽が描かれてあった。
「八咫烏か……」
「ヤタガラス?」
正行が首をひねる。
これを見た秋水は渋い顔をした。
「細かい話は後でするが、早い話が裏天皇家とも言われる日本の秘密結社だ。俺たちからすれば非常に厄介な宿敵で五家を滅ぼそうとしている」
その言葉に正行の表情も引き締まる。
「あと、これも気に入らないですね」
石動は円の中にある月と太陽を指さした。
「これが、何か?」
また、正行が聞く。
石動は簡単に答えを出さない。
「……正行。お前は月に何を連想する?」
「月、ですか……丸くて白くて綺麗で……女性?」
「では、月を女性と例えると太陽はなんだ?」
「太陽は男性ですね……それが何か?」
今度は猪口が語りだした。
「正行君、『イルミナティ』って知っている?」
「新しい紅茶ですか?」
その言葉に大人たちは少し笑う。
「そうだね、紅茶だったらよかったね……正体はアメリカに
「さすが、最近まで公安外事の『超特急エース』と言われたことありますね。これは知らなかった」
春平はのんびり、ぬるい茶を飲む。
「親父は、半世紀以上、ほぼ星ノ宮から出てねぇだろう? 知らなくて当然」
秋水が冷やかす。
睨む春平。
喧嘩腰のになりそうな両者を猪口が咳払いをして、場を収める。
猪口直衛は彼らの主であり、最大の
だから、頭が上がらない。
もうすぐ、夕闇が迫る時間になった。
「俺、何か夕食でも作りますよ?」
立ち上がろうとする正行を猪口が制した。
「いや、君にも聞いてほしい。これは、警察でも日本の闇社会でも単独では解決できない。これは、いわば、日本の警察と君たちの裏社会のタッグで事に当たらないと、《このテープ》の末路をたどる」
平野平春平、秋水、正行、石動肇は、顔を見合わせ、改めて座りなおした。
幸い、ラジカセは電源を入れると正常に作動した。
ただ、雑音が少し混じるが、時代を考えればしかたない。
--これを聞くすべて物に告げる
--私の名前はRと名乗る
--ここは、トアル国の地下実験室だ
このテープは五人の男たちの前で語り始めた。
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