第四章 三つ足の烏(からす)は神の夢を見る その2

 その時、「なんか、賑やかですね」と土間から声がした。


 居間と土間は繋がっている。


 そこを見ると、先ほどまで喫茶店で冷や汗を流した男がいた。

 

 スリーピースを着た石動肇だ。


「お久しぶりです、石動さん。お茶、持ってきますね」


 正行が立ち上がる。


「おう、上がれ、上がれ。これから『楽しい』ことが始まるぞ!」


「おやっさんのいう『楽しいこと』って大方、とんでもない事件ものですね」


 そう言いながら、石動は嘆息をする。


「まあ、いいや。俺も、それなりの事件ものを仕入れてきました」


「あっら、奇遇ねぇ」


 このやり取りを聞いて、春平と猪口は思った。


--何だかんだで仲いいなぁ、この二人



 正行が入れた緑茶を飲みながら、まずは、石動から話す。


 まずは手短に『十三人の使徒』から接触されたことを話す。


「そっか、あいつら、生きていたかぁ……」


 しみじみと秋水は頷く。


「元気そうでした……でも、首魁であるローザ・テトラ・グラマンドが死んだ報告でした」


 その言葉に皆、息を飲んだ。


 裏社会を知る猪口も何度か接触している。


 最初に聞いたのは正行だった。


「どこで、何で……?」


 その声には若干泣き声が入っている。


「日本で、ある調のために富士樹海を『空駆ける薔薇』で飛行中に爆破された。場所が場所だけに静岡県警や自衛隊も及び腰でな……復讐のための調査依頼との護衛を頼まれた」


「復讐……ねぇ」


 春平は天井を見た。


「今は『十三人の使徒』で情報は漏洩していないだろうが界隈の連中が知ったら裏社会の闇が表に出てくるのは時間の問題だな」


「ある人物?」


 石動の指は意外な人物を指した。


「じいちゃん?」


「親父?」


「春平さん⁉」


 ローザが亡くなった以上に三人は驚いた。


が狙っているのは老師、春平さん。正確には、あなたの脳みそです」


「はぁ? 俺の脳みそ?」


 本人もさすがに驚愕だ。


 

 確かに過去何度か、父の勧めや主である猪口家の依頼で護衛をしたことはある。


 何人も日本刀で首をはねたり、胴を真っ二つにした。


 しかし、春平は歳を老いた。


 かつての絶頂期ピークから比べれば、筋力は半分以下だろう。


 集中力や気配を察知することだって自信がない。


 だから、戦場帰りの息子である秋水に後を託した。


 なのに、何故?



 春平も周りも困惑するが、石動は敵がなぜ、春平を狙っているか分かっていた。


 春平自分石動 の戦闘スタイルはとても似ている。


「老師の脳、正確には目と脳の神経細胞が非常にうまく連動できているんです」


「はぁ?」


 残りの三人は首をかしげる。


「コンピューターは一つの情報を処理するのは人間よりも早い。ただ、それが正解かどうかは何度もテストをして専門のエンジニアがプログラミングなどをしないといけない。老師は、その分、初見でも目で見た情報を脳が経験と知恵で素早く正解に導くことができるんです」


 石動の熱弁に周囲は「はい……」としか言いようがなかった。


「じゃあ、関係あるかなぁ」


 今度は猪口は話し始めた。

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