第四章 三つ足の烏(からす)は神の夢を見る その1
平野平家は星ノ宮市が一望できる山の中腹にある。
正行はバイクで、ほかの春平と猪口は秋水が運転するナディアで家の門をくぐり、納屋に停車して家に入った。
春先だがフルフェイスのヘルメットでは蒸せるらしく、居間に座っても正行はちょいちょい指先で毛先を触る。
それを祖父である春平が「やめなさい」と小声で
純和風の、というか、武家屋敷の居間には端っこに仏壇と対角にやや大きめのテレビが据えられている。
あとは中央に樹齢千年以上の一本杉から切り出した一枚板が天板の卓がある。
余裕で大人二十人ぐらいが座れるが、今は家にいるのは数人のみで寂しい。
本来なら、家長である春平が上座につくが、そこには居心地が悪そうに猪口が座っていた。
何度も「俺は、いいですよ!」と断ったが無理やり春平が座らせた。
その上。
二階では、春平の息子であり正行の父親である秋水が自室である物を探していた。
部屋の中は床には色々なものが散らかっていた。
作りかけのガンダムのプラモデル、すでに廃盤になった有名ロックグループのライブDVDやエロビデオ、改造したままの何の用途か不明な機械まで様々だ。
幸い、食べ物系だけはちゃんと分別して捨てているので生臭さはないが換気が十分ではなく、機械独特の焦げ臭さやシンナー臭が若干する。
「えーと、どこあったけっなぁ? だいぶ前のものだぞ……」
そういいながら押入れを開ければ、汗臭さが襲ってきた。
さすがに秋水も鼻を抑える。
顔を背ける。
「何、この臭い……ファブリーズでも取れないぞ……って、俺か……夏が来る前に処分しよう……って、あったぞ」
顔を背けた押入れの下に、お目当てのものがあった。
「わー、くっせ!」
「消臭剤もってこい!」
「換気、換気!」
それを持ってきたとき、機械とはいえ、汗臭さのしみ込んだ臭いに正行たちは悶絶した。
一悶着が済んだのは、十五分後。
悪臭がある程度取れ、臭いになれた。
「しっかし、久々に見たな……ラジカセ」
正行が懐かしそうに父が持ってきた機械を見る。
「今や、ラジオもネットの時代で何時でもどこでも聞けるしアーカイブも無限大だ……そういや、昔……俺が現役の頃にラジオで人気の謎の少女がいたな……投稿のみで謎だったけど、若い部下たちから大層な人気で何度かラジオに電話で生出演したときなんかは夜勤志願者が大量に出たな」
猪口が懐かしそうに言った。
その言葉に秋水が噴出した。
「? どした?」
「猪口さんは、その少女のことを覚えていますか?」
「うん? ……ああ、ずいぶんかわいい声だった……今、生きていたらいいお母さんになっているんだろうなぁ」
ついに秋水は大きな体に大きな声で笑った。
「その娘さん。今、いますよ」
「どこに?」
すると、笑いを止めて、三人の視線を受ける。
すっと息を吐く。
すると、巨大からは信じられない実にハイトーンの可愛らしい少女の声が出た。
「はーい! 私、斎賀優佳。星空学園三年スター科のアイドル志望の女の子。今日は京葉線がポイント故障で遅れちゃった、てへ♡ 好きな漫画は『前田慶次 かぶき旅』です! 好きな番組は『ミュージックステーション』でテンションの低いタモリさんを見るのが生きがいです♡」
三人は、ある意味戦慄し、猪口はこう言った。
「あのさ、部下には秘密でいてくれ。正体見たら、自死を選ぶか、人格が壊れるから」
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