第二章 それでも、現実はあり続ける その6
過去から現代に戻る。
平和な日本の日常だ。
冷めた、残りの紅茶を飲み、パソコンの画面から目をそらさずに店員を呼び新しい紅茶を注文した。
翌日、ほぼ新品同然の戦闘服を渡された。
一応、礼は言う。
「あ、ありがとう」
「いいのよ、私のところに興味があったら何時でもいらっしゃい。心も体も満足させてあげるわ」
そこに秋水は冷ややかに笑いながらローザに言った。
「あのな、石動君は俺の唯一無二の弟子で最愛の友人で最高の相棒なんだ。勝手に勧誘するな!」
「あらあら、昨日のこと、怒っている? あなただって、私が戦い方を仕込んでいるときに色々したじゃない?」
無邪気なのか?
悪意があるのか?
「その色々が嫌で俺は、あんたから逃げて一回だけ日本に戻ったんだ!」
エンジン音が響く。
ローザの個人所有のエアホースワン。
『空駆ける薔薇』は徐々に発進シークエンスに入った。
「じゃ、またね」
気軽に彼女は手を振り戦場を離れた。
秋水にとって代々受け継いだ剣術や体術を叩き込んだ父は第一の師であるのなら、戦場という場所で生き残る術を叩き込んだのがローザなのだ。
訓練中の合間に、今でも連絡がつけば、時々、「ローザの言った『色々』って何ですか?」と聞くと、ほぼ必ず秋水は飲食物を吹く。
そして、話題を変える。
若かった時分には知りえなかったが、今なら少し分かりかけている。
だが、その先は本人にも言わないし、考えたくもない。
『依頼がある』
日本語のメッセージが映る。
石動は断ろうした。
--裏社会の首魁が死んだ。
--だから、どうした?
自分に言い聞かせる。
危険なことは過去でいっぱいしてきた。
今は平穏な日常を謳歌している真っ最中なのだ。
と、銀行のネット口座に入金があった。
散々無理を言って夜逃げした会社が、ようやっと、反省して入金でもしたのだろうか?
だが、その金額を見て石動は文字通り腰を抜かしそうになった。
千万ドル。
日本円にしたら十億円以上。
こんなの国家プロジェクトとほぼ同等だ。
『まだ、足りないか?』
相手は自分の様子を見ているようだ。
『足りないのなら、好きなだけ0を足せ。その分の金額は払おう』
『それでも、断ったら?』
『ここを爆破するだけさ』
選択の余地はない。
無いというより、現実はあり続ける。
会社のため、人命のために受ければ丸く収まる。
ならば、後で鬼が出ようが蛇が出ようが覚悟を決めるしかない。
『この依頼、承ろう』
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