第二章 それでも、現実はあり続ける その4

 ローザリオ・テトラ・グラマンド。


 普通のパソコンで一般人が、この名前を入力して検索しても出てくるのは北半球を主に商売する保険屋の社長だ。


 一応、全世界に展開しているが世界的な企業から比べれば微々たるものである。


 ただ、特殊な機器を使ったパソコンとIT技術、また、オニオンスキン(闇世界の情報を扱うサイト。情報量として多額の金を支払う)を見つける能力があれば、この人物がやっている本職、つまり傭兵派遣業の凄さが分かる。



 石動肇が、この人物に出会ったのは戦場で師によって戦場を生き抜く術を叩き込まれている訓練中だった。


「はぁーい、秋水しゅうすい。お・ひ・さ・し・ぶ・り」


 砂塵が止んでマントに付属するフードを取ったとき、美しい顔が出てきた。


 妻と出会う前の石動からして「世界で有数の美女」。


 美しい青色の瞳、太陽のような金髪、目筋の通った瞳には自信が宿る。



「妻と出会うまで、あいつが一番外面がよかった」というのが今の石動の素直な感想だ。



 一緒にスクワットをしていた師、秋水が話しかけてきた相手を見た。


 普段なら女性を見ると笑顔ぐらいは見せる秋水が、この時に限り、物凄く嫌な目をしていた。


 強いて言うのなら最低最悪の魔物を見る目だ。


「そんな目で見ないでよぉ。照れるじゃない?」


「なんで、ここが分かった? 要件はなんだ?」


 秋水の声は今まで聞いた声より低い。


「色々。『絶対、弟子は取らない。相棒パートナーも要らない。俺は戦場で野垂れ死ぬために戦う!』なんて言って私の元を離れたくせに何だかんだで彼……石動君だっけ? をゲットしたじゃない?」


「俺を殺すと?」


 すると、美しい女性は上品に笑った。


「あなたに裏社会の全てを叩き込んだ第二の師匠である私と今や闇社会で知らぬ者はいない『霧の巨人ジャイアントミスト』が戦ったら良くて相打ち、最悪共倒れ。そんな意味のないことは興味ないわ」


「じゃあ、何で来た?」


 これも笑顔で答える。


「ひ・み・つ」



 石動は驚いていた。


 普段、人を翻弄する秋水が逆にもてあそばれている。


 余裕がないとも思える。


「ところで、ご飯を一緒に食べない? 私専用のエアホースワンに招待するわ。中古の改良したものだけど居住空間は最高よ」



 

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