第二章 それでも、現実はあり続ける その2
本来なら、石動は基本在宅ワーカーであり、企画の進捗状況や人事関連の手続きや送られてくる書類の整理をパソコンでしている。
妻との時間を大切にして、仕事の合間に彼女との間にできた赤子の育児にも積極的だ。
前世代的な『おたけ』さんはやや否定的だが、半年もすればオムツも入浴も食べさせるのもだいぶ上達してきた、と石動は思う。
もっとも、それは妻やおたけさん、周りの人々のサポートあってのことで自分の力は、まだ、微々たるものだ。
だからこそ、自分の子供たちが世界がわかる大人になったときに『自分の父が社長をしていた会社はこんなにすごいんだ!』と彼らが胸を張れるような仕事をしたい。
そう思っていた矢先だった。
会社自体も屋台骨とは言わなくても、ドアの開閉が若干違和感を感じる。
家に違和感を覚えれば不安になる。
それは会社自体の不安というシロアリが社員の士気や意欲などの土台を食い荒らし、結果、『倒産』という崩壊になる。
こうなれば、今のような生活はできない。
何より、自分の心にシロアリがいる。
『不安』というシロアリは増殖するのが早い。
それが、彼の危機管理能力を著しく低下させたのかもしれない。
心とは裏腹の軽快な電子音が鳴った。
自分のスマートフォンからだ。
DMで「hi!」と、これまたずいぶんラフな感じのメッセージだ。
無視しようとした。
『俺はお前を知らない。さようなら』
石動はこのような意味合いの英語で入力して送信。
無視をしようとした。
その瞬間。
疑問が沸いた。
自分のスマートフォンは市販のように見えるが中身はだいぶ改造していて自分が信用した人間のみ送受信できるDMだ。
しかも、この時間帯は大抵は仕事や勉強をしている。
そう思った瞬間。
背筋が凍った。
同時に五つの殺気を感じた。
頭、首、腸、心臓、男性器……
鋭く尖った爪や牙で襲われる恐怖。
暖かいはずの室内が、極寒になった。
『ごめんなさい。ちょっと、驚かせすぎたかな?』
英文が送られてくる。
殺気はおとなしくなった。
石動は深呼吸をする。
数人の店員や客が不思議そうに見ているが気にはしない。
また、暖かい店内に戻ってきた。
『あ、周りは見ないで。今は画面だけ見て。そうしないと、ここを爆破しないといけないから』
送り主は、今度は日本文でそう注意した。
殺気からわかる。
脅しや遊びではない。
本気で、この店を、何の関係もない人々の命を無感情に殺す。
小さく、ため息のような息を吐く。
真夏はまだなのに、スーツの中は汗が滝のように流れていた。
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