第一章 陽気な人々と日常 その5

 最初は、阿佐ヶ谷夫人たちが所属するバレーボールクラブのの監督である、本業は農業科の森前教授がバレーボールのコーチの代役を頼んだことからだ。



「急に共同開発していた会社のAIが異常を起こしたんだ。で、俺はそっちに注力したいから平野平正行君。君は体育の教授からスポーツ万能と聞いているから……頼む! 今回一回限りでいいからバレーのコーチを引き受けてくれ‼」


「ふぁっ?」


 食堂でカレーライスを食べていた正行に森前教授が頼み込んだ。


--どーせ、面白半分で俺を推挙しやがったな……


 正行は過去、サッカーで後頭部をボールで強打し、野球ではことごとくデッドボールを食らうなどなど。


 その手の話は事欠かない。


 武道。


 例えば、空手などは圧倒的に強いが、そんなにあるわけではない。


 しかし、上手に断れないのが正行という男。


「あの、そもそも、なんの異常なんですか? よろしければ、知り合いにコンピューターに詳しい人がいますから紹介しますよ……」


 今度は森前が苦い顔になった。


 そして、目の前に座り混雑して雑談の中に紛らわせるように小さく言った。


「君は、アナハイム社って知っているか?」


「ああ、宇宙工学関連では名を挙げ始めたベンチャー企業ですよね? それと宇宙がどう繋がるんです?」


「アナハイム社は宇宙関連では有名だけど、その応用で農作業用大型機の無人化も推し進めていてな……アメリカの場合、その市場規模はとても大きい。その会社から依頼されて俺は前から研究していた農業プログラムを貸した」


「へえ……」


 正行はお冷を飲んだ。


 この田舎の大学にそんな壮大な研究者がいたことに驚いた。


「しかし、ライバルも日本の比じゃない。加えて、アメリカの国と民間も興味があるらしい……一応プロテクト、防御壁を作ってはいるけど、中身は大事な研究資料だ……バレーどころじゃないよ……その代わり、うちの合同農業祭に来なさい。なんでも好きなものをあげるよ」


 正行は考えた。


 いよいよ、食堂は混んできた。


 森前の顔を真っすぐ見て正行は言った。


「俺、大型トラクターで爆走したいです!」

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