第一章 陽気な人々と日常 その2
販売エリアから正行はイベント・飲食エリアへやってきた。
かなり清掃や脱臭をしたのだろうが、どこか獣臭い。
やや遠くに乗馬体験コーナーがあるのも一因かもしれない。
その前には野菜の体験堀りがあり子供や大人が大地に根を張ったジャガイモや大根を指導員係の高校生たちの指導を受けながら引っこ抜いている。
「あっらー、正行君じゃない?」
そこに声がかかる。
背中から声がして振り返ると二人の上品な夫人がいた。
「あ、阿佐ヶ谷さんと渋谷さん。こんにちは」
正行は礼儀正しく挨拶をする。
「こんにちは……」
彼女たちは、最初から本題に入らず世間話をした。
「今日は、何を買ったの?」
妹の渋谷夫人が聞く。
この二人は姉妹である。
正行の同級生の母親であり、小学生のころから彼を見守っていた。
親が離婚して父親と祖父と暮らす正行にとっても彼女たちにはとても世話になった。
親身になって進路を考えてくれたり、料理のコツや食材の選び方を教えてくれた。
もめ事が起これば、多忙な父たちに代わりになった。
高校生になった正行はある程度の家事はできるようになり、自然と彼女たちから離れたが恩は忘れていない。
粗大ごみ運びや加齢による腰痛などで買い物ができないときは代わりに買い物や料理、掃除もした。(洗濯は異性の下着もあるのでパスした)
それでも暑中見舞いに年賀状は忘れない。
商店街や書店でも会うが大抵は目礼だけで声をかけるのは珍しい。
「今日は、こんなものを買いました」
正行が買い物袋を見せる。
「相変わらず、目利きがいいわねぇ。肉も買ったのね」
「今日は、カレーだと思います」
笑顔で正行が言う。
と、姉である阿佐ヶ谷夫人が正行の手を強引にとって歩き出した。
「え?」
その背を渋谷夫人が押す。
半ば、押される形で着いたのは移動食堂車であった。
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