序章その二 「ゲームは、もう、始まっている」 2

 カセットテープ。


 昭和に登場した音声の録音・再生装置である。


 それまではレコードで場所を取るし移動には手間がかかった。


 もちろん、今でもレコード愛好者もいるが、カセットテープとその再生機の小型化は『音楽を自由に持ち運びができて複製ができる』という画期的な発明だった。


 音楽はもちろん、英語教材などでも使われ、今のスマートフォンの音楽アプリのような感覚で人々は使っていた。



 しかし、現代においては音楽プレイヤーは多種多彩になりパソコンや先ほどのスマートフォンのような機器で千曲以上再生できるし、大手動画配信サイトでもオリジナル曲などは一億曲もあるという。


 それらを享受している今の現代人、時に若者からすればカセットテープは骨董品だ。


 それでも、自分なりに編集した『マイベスト』と作って友達と自慢したり、本来収録曲を記載する部分にアニメやアイドルの写真を張って楽しんでいた。



 猪口も学生時代や現役時代の途中まで、例えば試験や疲れた時に当時の流行歌や自分の好きな歌手の歌を聴いてやる気を出した。


 それも、体の衰えとともに気合や音楽だけでどうにかなるものではなくなり、最終的にはサプリメントを数種類飲んで何とか徹夜を頑張った。


 そんな思い出に浸っていると、表紙を見て表情を引き締めた。


 志摩子は何も言わない。


 表紙に書かれていたのは三つの爪を持つカラスと太陽と月。


 しばし、沈黙が流れた。


 彼女が何を言うか分からないが、とりあえずテープを手に取る。


 かなり古いテープらしく張られたA面・B面を示す表示が茶色く変色していた。


 相当古いものらしい。


 目の前の女性は仇名通り、表情筋すら動かさない。


 何を言っていいのか?


 何が、正解なのか?


 猪口は、散々迷い、少しの沈黙ののち厳かに言った。


八咫烏ヤタガラスが動き始めましたか……」


 その言葉に初めて鋼鉄の女が自分の言葉を出した。


「きゃつらは、常に時代の変化とともに動いています」

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