第2話 「貴族との交戦」
「こっちは貴族なんだよ! お前ら平民とは、身分が違うんだ!」
……貴族、か。はっきり言って俺は、彼への評価を覆さざるを得なくなったな。
ここで言うところの貴族とはつまり、この王国の初代創立者たちの子孫を指す。
……貴族という輩には、2つの種類がある。
一つは、マトモな貴族。もしくは、無害な貴族。
こいつらは一般人に攻撃的であることも無ければ、差別的発言をする事もない。
自分の考えを隠しているのか、或いはそんな物は持ち合わせていないのか……どちらにせよ、俺たち一般人にとって無害、或いは有益であることに間違いはない。
問題は後者、二つ目だ。たった今俺の胸ぐらを掴んでいる、この野郎が該当するような連中。
つまりは、“貴族”という階級で威張り散らすクソったれだ。
とはいえ、この貴族というシステム自体曖昧な物だがな。
長い年月を経るうちに段々と貴族の数は増えていき、さらには“貴族の愛人の子なので貴族です”と言い出す者まで現れ出したものだからもうメチャクチャだ。
そうなった結果、現在では自称貴族と本物の貴族の見分けがつかず、“本物である事が確定している貴族との顔の類似性で照合する”という最悪レベルの方法で貴族というシステムは動いている。
「へぇ、そうかい。だがお前以外にも、もう一人ほど貴族がいるようだぜ。」
「……あぁ?」
この国で名前が三つに分かれているという事は、それ即ち貴族であるという証明。
そして、俺の横にいる彼女の名はベルデット・クラウ・フォールズ。
つまり、まあ、そういう事だ。
「……流石に、あなたは見逃せないわね。
私と同じ存在に、こんなおいたをさせておく訳にはいかない。
普通の人々にとって、典型的な最悪の貴族であるあなたには、特に。」
「何だ、お前も貴族なのか?
……まあ、この俺が知らねえって事はだ。どうせお前も、辺境の“自称貴族”なんだろ?」
そう言ってこいつは俺の手を離し、勝ち誇ったように両手を軽く上げながら自分語りを始めた。
「だが、俺は違う! 俺はお前のような偽物ではない、本物の初代創立者の子孫なんだよ!
お前がどんな汚い手を使って国の審査に合格したか知らないが、そんなもん……!」
……流石の俺も、我慢できん。
俺は、こういう奴が、死ぬほど嫌いだから。
「おい、クソ野郎!」
呼びかけながら己の拳を握りしめつつ、身体を循環する魔力をそこに収束させていく。
そして野郎がこちらを見たところで、その左頬に対して魔力で強化された鉄拳による一撃を叩き込んだ。
「ぐぼ……っ! て、てめえ何を!」
野郎が高威力のパンチを顔にぶち込まれ、被弾箇所を抑える。だが、それは次の攻撃を防がない事と同じだった。
すかさず俺は、左手で掴んで肩に乗せていた鞄を相手の顔面に投げつけて一瞬だけ視界を奪う。
「ぐおっ⁉︎ クソ、こんな物で何を……⁉︎」
そしてその間に、右手では残った魔力を五指に溜め込んでおきつつ接近。
そして右手の指を全て立て、下から突き上げるように横っ腹に刺し込んで……射撃した。
「何っ、いつの間……ぐがぁっ!」
魔力射撃。俺たちのような魔法教育を受けた人間なら誰もが使える、初歩的な魔術である。
その使用方法は至って簡単。体内に存在する魔力を固めて質量を持たせ、任意の場所から撃ち出すだけ。
更に、作動に魔力を用いる特殊な小型装置による助けがあれば空中発射も可能という代物だ。
……が、あまりこの野郎に効果を発揮している様子はない。
この辺に存在している危険生物程度ならば集中射撃で何とでもできるような火力だが……何かがおかしい。
「ちっ、効かない……いや、違うか?」
とりあえず距離を取り直すため、奴を蹴り飛ばしつつその身体によく目を向ける。特に、攻撃が当たった部分に。
……どうやら、衝撃による痛み自体はあるらしい。ただ、それにしては服が綺麗すぎる。
「違う! この服、魔術対策が施されているのか! まったく、余計な事をしてくれやがって!」
魔術対策、というものが存在する。方法はこれまた単純で、物体に魔力を込めるというだけのもの。
しかし、その単純さにも関わらず効果はかなり出るものだ。物体に込められた魔力によってそれに対する魔力による効果を減衰し、相殺する。
故に、高威力の魔術でなければまともな攻撃は入らないが……ならば、牽制してやるまでのこと。
「だったらこれだ、受けてみろ!」
「ちぃ、魔力射撃だと⁉ そんな豆鉄砲が何になる!」
「そいつはどうかな!」
向こうも服の特性を理解しているのか、今度は俺が撃った弾を交差させた両腕で防御する。だが、そこが隙だ。
右手から魔力を撃ち出しつつ、自分のシュゲイル……“飛行”の能力で、地面から一瞬ばかり浮くことで一気に距離を詰めていく。
更にそのまま、空いた左腕で奴が前に出している腕の片方をはたき落とした。そしてもう片方の腕も右脚で蹴り上げつつ、その足に魔力を込める。
「っぐ!」
「遅いんだよぉ! 対応が!」
そして魔力の篭もった右脚を縮め、腕の防御がなくなった腹部……それも、さっき攻撃した部をピンポイントで突き崩すような蹴りを叩き込む。
「ぐあぁぁあああっ!」
そうすると奴は、叫び声を上げながら転がりつつ学校の敷地内に吹っ飛んでいく。服のおかげで魔力の効果が下がっているとはいえ、これは流石に効いたのだろうな。
「うっわ……相変わらず容赦ないわね。ま、だからってこいつに同情はしないけど。」
後ろで見ていたベルデットが、まるで他人事のような口調で声を漏らす。
あの野郎に喧嘩を売られていたのは、お前も同じだろうに……と思っていると、今度は右側から俺の方に声がかかる。
「おい君、待て! それは流石にやりすぎだ! 確かに彼の行動は目に余るものがあったが、そもそもの原因は君等にあるんだぞ!」
ちらとその声の方を見ると、そこに居たのは金髪碧眼の男。髪型は短髪で、特別ガタイがいいわけでは無い……が、決して肉体的に弱くはないだろうという具合の身体だ。
そして、彼の発言を聞く限りだが……まあ、こいつは恐らく“よく居る奴”だ。正義感を振りかざし、俺の邪魔をしてくる輩。
別にこいつの発言が正しいということは否定しないが、それはそれとして俺の行動を邪魔してくるのは看過できないな。
故に無視もできないので、形ばかりの反論で最初の奴を見るための時間を稼いでみる。
「うっせえよ、黙ってろ。他人様の問題に口出ししてんじゃねえ、いい子ちゃんぶりやがって。」
「……っ、いいからやめるんだ! 誇り高いスタイルゲート魔術学院の新入生として、女神カレイトン様に力を頂いた者として、恥ずかしいとは思わないのか!」
「知るかよ! ……クソ、あの野郎め起きやがった! おいクソったれ野郎、まだやるか!」
女神様に与えられた力……すなわち、
それに感謝しろというのは、何度も聞いた話ではあるが……俺はそれに賛同しかねるな。
魔法というものが存在する世界なんだから、シュゲイルがその延長線上にあるという事は予想すべきだ。
……それに、俺は神など信じない。そして女神カレイトンは、信じたふりをしているだけの人間に力を与えるような神ではなかったはずだ。
聖書からも、それはわかる。ならば、それ自体が虚構であるという論理以外に説明しうる術はない。
などと自分の信じる論理を再確認しているうちに、その男は決心に溢れた表情で俺を見つつ言う。
「……仕方がない。君がそこまで強情であり続けるというなら……」
「おい、何だ? お前も俺の相手をしてくれるってか?」
「……止むを得ない。悪いけれど、実力行使でもって君を止めさせてもらう。」
「そうこなくっちゃ! 戦う相手が増えるってんなら大歓迎だぜ、俺は!」
こいつが出てきた時から少しばかり想像はしていたが、どうやら本当に俺を戦わせてくれるらしい。
邪魔されるだけなら最悪だったが、そういう事なら大歓迎。
さあ、さらなる戦いを楽しもうじゃないか……!
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