第3話 「剣の王子様」
……更なる戦いを始めよう。その意気の元に、俺は魔力を四肢に流していく。
しかしその間に、男は妙な行動を取り始めた。あろうことか手持ちの物を全て地面に置き、名乗りを上げ始めたのだ。
「……我が名は、アルフォールン・ヤーリッチ・ペンフォート!」
「おい待て、待て!」
そうなると、流石に止めざるを得ない。こちらも向こうが変な事をやっている隙に攻撃するというのは不本意だからな。
「待て……色々と言いたい、ぁいや言わせて頂きたい事はありますが……ペンフォート? 本当にペンフォートなのですか?
それってこの魔術教育校の近くに実家があって、この国の現在の国王となっているお方の家名ですよね?」
「ああ、そうだ。」
「……で、貴方はアルフォールン様。我らが王国の現王子と同じ名前の、アルフォールン様。」
「それで正しい。」
「……という事は、ですよ? 論理的に考えるのであれば貴方は……王子、様、ですか?」
「そうだ。自分から口にしてしまうと自慢のようになってしまうけれど……私は、この国の王子だ。」
……いや、知ってはいたのだ。
俺と王子様の年齢が同じだという事も、そして彼もここに通うという事も。
噂には聞いていたし、国が正式に発表もしていた。だから、知らないはずはなかった。
「……驚きましたね、こんな所で何を? 護衛はどうしたんですか?」
「つけてきていない。私は父や母……ひいてはこの国から、自立するためにここに立っているのだからな。
そういう人間でなければ、明日の祖国は担えない。違うか?」
「いやまあ、そりゃあそうですが……」
ちょっとやる事が極端じゃないか、とは思ってしまう。まあ本人の意向なのだから、俺も否定はしないが。
だが、問題は……俺の方が、ちょっと気が引けてしまっているという事だ。
一国の王子と対面しているとなると、流石に狂った精神状態ではいられない。
故に俺はいつもの思考に戻したのだが、今度は戦闘をしようという気が失せてしまったのだ。
「まあいいや。分かりましたよ、そうであれば俺もそこまでの抵抗はしません。
流石に王子様相手に暴力を振るう事はできない。俺は一応、ただの平民ですからね。」
「……いや、構わない。」
「はい?」
俺は自分の言葉通り、王子様と戦うのは気が引けるからと考えて戦闘を停止しようとしたのだが……
しかしそんな気遣いを無碍にするように、彼は口を開く。
「私は構わない、と言った。
君とて私とやりたいんだろう? 自分に正直になって考えてみるんだ。」
……そりゃあ、やれるもんならやってみたいのが男の性ってなもんだろう。
だが、やはり彼は王子だ。俺には、王子相手に仕掛けようなどという気概はない。
「……いえ、俺は……」
「先程も言ったが、ここには私の護衛はいない。監視もいない。私は、身一つでここに来たのだ。
……私もな、実戦というやつをやってみたくなったのだ。君と同じだよ。」
「ご冗談を。俺と同じような戦闘狂がこの国の王子であれば、祖国は荒廃まっしぐらですよ。」
「まあそれはそうだろうが、とはいえ今日のこの一時ばかりでこの国が潰れるとは思えない。
それに為政者ともなれば、君のような異常者に対応する事は当然あるだろう。経験は、必要だ。私は戦士として、君の暴行を止める。」
……と、彼が言う。どうやら燻る正義感は、もう止められないようだ。
だがそれでも俺が攻撃を渋っていると、彼は腕から一振りの輝く両手剣を生成してきた。
「……『愛国の剣』、展開……!」
……なるほど、本当にやる気らしい。それならそれで、上等だ。
潰しに来るなら躊躇うことはない。自分の力を試そうと躍起になっている王子様を、少しばかり痛い目に遭わせてやろうじゃないか。
「戦士らしく対等に、か? 随分と言ってくれた割には、いい根性じゃないですか。
そうやって余裕こいているとどうなるか、教えてやりますよ。」
……両腕を、彼の方に向ける。そして手をパーに開きつつそこに溜めた魔力を開放し、両手の中心から放出するように調整。
「さあ来てみろ……王子様。」
「ああ、行くぞ!」
……そう口にすると、自分の口角がどんどん上がっていくのを感じる。
それを見た王子は剣を軽々と持ち上げ、体の横に構え、右足をじりじりと後方へ下げ……それを起点として一気に踏み込み、突進を仕掛けてきた。
「やはりそう来る、か!」
だが、流石にそれくらいは読めるというもの。故に相手の突進を迎撃するように、魔術での対応を偽装し……ギリギリまで引きつけて、右に回避。しかし、腕だけは自分が元いた位置に向けておく。
そして向こうが射線に入った瞬間、こちらも広げた手から魔力を1秒ほど継続して撃ち出す。
「⁉︎ ちぃ、よく動く! それに狙いも正確……!」
今使った魔術は、魔力照射……魔力射撃の応用で、質量を持った魔力を継続して集中的に撃ち込む攻撃だ。
本当ならばもっと魔力を込めて威力を上げたかった所だが……俺たち2人の周囲では、既に人だかりができている。
しかも数が多すぎて、ほとんど壁になってしまっている始末だ。ここは闘技場でも何でもないはずだったが、すでにこの場所には戦闘のためのリングが出来上がっている。
だから、俺が取りうる手段は精神攻撃で揺するくらいのもの。
「はっ、その服でどこまで耐えられるかな! 幾ら魔力に耐性があっても、所詮は服の一枚程度ってなもんだ!
こうやって継続して撃ち込んで、魔力を使い切らせてしまえば……っ⁉︎」
これは精神攻撃だと自分を落ち着かせつつ少しばかり余裕をこいて喋っていたが、すぐにその虚勢は剥がされる。
なんと奴は、服を魔法対策の盾にして突っ込んできたのだ。魔法攻撃を食らったときの衝撃も、少なくはないはずなのに。
「はぁあああああああっ!」
「ならば出力を……って、おわっとぉ⁉ クソったれめ、この野郎は化け物か!
この攻撃を受けながら、そのまま……っ、ちぃ!」
呪詛を吐きつつ攻撃の出力を上げてみたが、その瞬間には既に向こうが距離を詰め切った瞬間。
そしてあちらは剣を振り上げた。近すぎて回避ができない、反撃もこいつは気に留めない。
そして防御しようにも、あの剣はシュゲイルによるものだ。俺の防御能力では、あれは絶対に防げない。
……だからこちらも、近接戦に頭を切り替えつつ魔力照射の範囲と発射位置を変更した。
「踏み込みが甘い!」
「んなっ⁉ くそっ、この一瞬にして魔力の集中だと⁉ しかも魔力照射の範囲を狭めて、剣にするのか!」
「そう、とも……! 相手がシュゲイルとて、この魔力量があれば、防ぐくらいは……だ!」
右手の魔力照射を行う位置を、掌の中心から指先に変更。そして親指の半分程度に長さを抑え、魔力によって簡易的な剣を生成したのだ。そしてその剣で、シュゲイルの剣が俺の肉体を切り裂く前に止める。
それによって聞こえてきたのは、流れる魔力によってシュゲイルの剣が削られていく甲高い音。
そして見えてくるのは、王子様の方に散っていく火花が彼の服や身体に傷を与えていく光景。
しかしそんな中でも、更に剣を押し込まんとそれに力が込められる。それをそのまま受け続けていると、段々とパワー負けして自分の方に剣が押し込められているのが理解できた。
「ぐぅあああぁ……っ! クソ、俺もなまったか……!」
「ほぅ、私に踏み込みが足りないと言ったのは誰かな! 随分と力が弱いくせに、よくもまあ言えたものだ!」
「クソったれがぁぁああああ!」
腹の底から声を出しつつ腕を前に押し出してパワー差を埋めようとするが、どうしてもそれが埋まってくれる様子がない。
まずい……このまま行けば、次にこの剣の餌食になるのは俺の半身だ。
パワーではない。想定を覆す攻撃で、何とかするしかないな……!
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