妖怪アパートへの内見
七霧 孝平
妖怪アパート
その日、俺は引っ越し先を探してアパートの内見に来た。
ちょっと古いアパートだが、駅は近く、コンビニも近い。場所は良好だ。
不動産屋の人も到着した。
ちょっとボサっとしただらしない髪型が気になる。
不動産屋に案内され奥の一室に入る。
そこで俺は息をのんだ。
「どうしました?」
不動産屋が俺を不思議そうに見る。この人には見えていないのか?
この部屋……。
「やあ」
「ようこそ~」
「いらっしゃい~」
俺の目の前。不動産屋の後ろ。
いわゆる妖怪と言えるモノが見えていた。
怖い……という訳ではない。いや、最初は驚いたが。
見た目の雰囲気は子供向け番組の様相で可愛いと言えなくもない。
ただ、ここに住むとなると……。
その後、一応、部屋内は見回ったもののまるで集中できなかった。
ずっと妖怪が俺たちに憑いて回っていたから。
見えてないらしい不動産屋はのんきに笑いながら案内してくれたが。
「どうです?」
「いや、えっと……」
確かに古さの割に部屋は良かった。
はっきり言って普通だったら即決レベルの物件だ。
……今も不動産屋の後ろにいる妖怪たちがいなければ。
「えっと、他に物件は……?」
「えー、あなたもですか」
「……あなた……も?」
「そうなんですよ~。この部屋見に来る人、多いんですけどね。
皆さん、終わった後は何故か嫌そうなかおするんですよねえ。
家賃安くて駅近なのに。何か悪いところありました?」
そりゃあるよ、とは言えない。
ていうか言い方的にこの人だけ見えてないのか?
俺はもう一度部屋を見る。
妖怪たちが楽しそうに跳ね回っている。
そういえば別に襲ってきたりはしなかった。楽しそうにしてるだけだ。
「……家賃」
「はい?」
「家賃、もう少しまけれませんか? そしたら入りますけど」
「も、もちろんです。少々お待ちください」
不動産屋は少し離れ電話をし始めた。家賃の確認を上にしてるんだろう。
俺は妖怪の方を見る。気のせいか、妖怪はさらに嬉しそうにしている。
俺がこの部屋に決めようとしてるのがわかるのだろうか。
「お待たせしました。確認できました。家賃〇〇円ならOKとのことです」
「お、安い。いいね、ここにする」
その後はトントン拍子に進んだ。
部屋の契約を進め、不動産屋と別れ一度ホテルに戻る。
「ありがとうございましたー!」
後ろから不動産屋の声が聞こえる。
俺は振り向かず手だけを後ろに振った。
不動産屋の髪が風で揺れる。
ボサボサの髪で隠れていた右目の部分がなびく。
右目がない、いや、正確には……。
「ありがとうございました」
不動産屋は一つ目の妖怪男だった。
妖怪アパートへの内見 七霧 孝平 @kouhei-game
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