農家の息子に転生した俺は成り上がる

第3話ミカちゃん

「アルス、起きなさい。もう時間よ」

「う～～ん、ふわぁ～、わかったよー。今いくよ、母さん」

俺は目をこすりながら母さんのもとに向かう。

「おはよう、アルス。ごはんできているから早く食べなさい」

「うん、ありがとう母さん。いただきます」

農家の朝は早い。まだ日は完全に出ていないが母さんと父さんはもうすでに起きていた。

母さんは俺の朝ごはんの用意、父さんは農地に向かっている。

「ほら、はやく食べなさい、アルス。お父さんのお手伝いをやりに行くわよ」

「うん、わかったよ。」

俺は朝ごはんを食べ終えて、母さんと一緒に父さんがいる農地に向かう。

「おー、母さん、アルス、来たか。アルスはあそこから作物に水をまいてくれ。母さんは俺と一緒に作物の世話をしてくれ」

父さんは作物の世話をしながらそう言った。

「うい、水をまいてくるね」

俺はそう言って、父さんに言われた場所に移動した。

「よし、今日もやるか。『ウォーター』」

巨大な水の塊が俺の目の前に現れる。

「ふんふん」

魔法で作り出した水を操作して、作物に水をあげていく。

魔法が使えるようになってから俺は、毎日、家の農業のお手伝いをするようになった。

具体的には、『ウォーター』の魔法で水を作り出し、作物に水を上げていくことは毎日して、太陽が出ていない日は『ライト』の魔法で光の玉を作り出し、作物の成長を促すことをしている。

「父さんー、言われた場所の作物に水をあげたよ」

「おお、ありがとうアルス。それなら、ここら辺の雑草抜きをしてくれ」

「はーい」

俺は一つ一つの作物の様子を見ていきながら、雑草があれば抜いていく。

また、作物に害虫がいたら殺していく。

害虫は作物の葉っぱの後ろに隠れていることが多いので葉っぱを一つ一つ丁寧に裏側まで害虫がいないか確認していく。

「ふ～う、農業って大変だな。除草剤がないから雑草を毎日抜いていかないといけないし、殺虫剤がないから作物を一つ一つ丁寧に確認して害虫を殺さないといけないし。前世の農家も大変なイメージがあったけど、前世よりも文明が遅れているこっちの世界ではより大変だよ。」

俺が魔法を使える前はこれらの仕事に加えて、離れた場所にある川まで行き、おけに水を入れて農地まで運び作物に水をやる、これを何回もしていた。

川と農地を何往復をするのは大変だ、それも水が入った重たいおけを運ぶわけでこの作業が結構負担になっていた。

俺が魔法を使えるようになって、両親はこの重労働から解放された。

「はあー、魔法が使えても農業は大変だよな。こんなに頑張っても天候や災害次第で作物がだめになってしまうし。作物が不作の時の絶望感はやばいよな。領主に作物を半年に一回、結構もっていかれるし、戦争があるときはそれにプラスして持っていかれるときがあるしな～。はあ、異世界も世知辛いよな。」

俺はそんなことを思いながら作業を続けた。

「よーし、アルス今日は終わりにするぞ！」

「はーい」

今日の分の仕事が終わり、俺は両親と一緒に家に帰る。

「いや～、アルスがこんなに魔法が使えてほんとによかったなあ。それにアルスは3歳なのに身体能力が成人並みだし、頭は俺より賢いんじゃないか！？」

「本当にそうね！アルスのおかげで仕事が結構楽になったわ。ありがとうね、アルス」

「おいおい、お母さん、頭が俺よりも賢いってところは否定してくれよ」

「あははは、ごめんなさいね」

父さんが少し落ち込んでいるのを見て母さんは笑った。

「母さん、ちょっと行ってくるね」

「は～い、アルス、気を付けていきなさいよ」

「はい、いってきます！！」

お昼過ぎになり、俺は近所の家に向かう。

「あー、アルスやっと来たわね！」

そこには、かわいらしい顔立ちの女の子が立っていた。

「ごめん、ごめん、ちょっと家で休憩しすぎてた」

「もう、時間を守りなさいよね！」

俺にそう言ってくるのは、俺の家の隣に住んでいるミカちゃんだ。

時間を守れと言われても、正確に時間をはかるものがないこの世界ではそれは難しいと思うのだが、それは言わない約束だ。

「ほら、今日も魔法を教えなさいよ」

「うん、じゃあ、今日もやろうか」

ミカちゃんは5歳で俺の2つ上の年齢だ。

ミカちゃんは俺の家の隣に住んでいることもあり、俺の魔法を見る機会があった。

俺の魔法を見てからミカちゃんは俺に「魔法を教えなさいよ」と言ってきた。

それから、ミカちゃんの家で魔法を教えるようになった。

「じゃあ、魔力を流すよ」

「うん」

俺はそう言って自分の中にある温かいエネルギーの塊、魔力をミカちゃんに流す。

「うう、ううん」

「どう？魔力を動かせそう？」

「今話かけないで！今集中してるの！！」

「ああ、ごめんね」

俺の魔力をミカちゃんに流し、その魔力をミカちゃんが感じ取り、自分の中にある魔力を動かすというのが練習方法だ。

魔法を使えるようになるには魔力がある程度必要だ。

年齢を重ねるごとに魔力は増えていき、だいたい、8歳から10歳の時に魔法が使えるようになる人が多い。

魔力を増やす方法を両親や周りの大人に聞いてみたが誰も知らなかった。

おそらく、平民の間には魔力を増やす方法が知られていない。

俺は魔力を感じ取り、操作することで自分の魔力が一般人よりも圧倒的に増えた。

なので、魔力を鍛えるには、自信の中にある魔力を感じ取り、それを操作することが必要だと思い、それをミカちゃんにやらせるようにした。

ミカちゃんと初めて魔法の練習をしたときは、まずミカちゃんに体の中にある魔力を感じ取ることをしてもらったがミカちゃんは全く魔力を感じ取ることができなかった。

「ねえ、アルス、温かいエネルギーなんてわかんないよ。ほんとにそんなのあるの？」

「う～ん、そうだなあ。ちょっと俺の魔力を流すから、体の中に何か変化することがあるか注意深く自分の体を観察してみて」

そう言って俺は、ミカちゃんの背中に手を当てて魔力を流した。

「ううん、あっ、なんか体が温かくなってきた」

「ミカちゃん、その温かさを操作するようにイメージして」

「ううん、あっ、ちょっとアルスが言っていることが分かってきたかも」

このことがあってから、ミカちゃんと俺の魔法の練習はまずミカちゃんに俺が魔力を流し、それを感じ取り、操作することになった。

こうして一日に数度ミカちゃんに魔力を流すのが日課になっている。

「ミカちゃん、今日はどうだった？」

「前よりも魔力を操作できている気がする。魔力も大きくなってきたし」

「そうなんだ、ならそろそろ魔法を使えるかもしれないね」

「えっ、ほんとにー！！」

「うん、ちょっとやってみようか。まずは俺が魔法を使うからそれをよく見ていてね。『ライト』」

俺とミカちゃんの間に小さい光の玉が出現する。

俺も初めはうまく魔法をコントロールできなくて、大きすぎる光の玉を作っていたが、今では大きさ、色、形状などをコントロールできている。

「あれ、今日はアルスの『ライト』小さいね」

「ああ、今日は大きさを調整したんだ。大きすぎるとまぶしいでしょ」

「それもそうだね」

「じゃあ、ミカちゃんはこの『ライト』と同じ大きさのものを作り出すようにイメージしながら『ライト』と唱えてみて」

「うん、わかった。『ライト』」

ミカちゃんが『ライト』を唱えるが光の玉は出てこない。

「あっ、出てこない。まだ魔力を鍛えないと駄目なのかな？」

「う～～ん、イメージ力不足だからかもしれないよ。光の玉の中心から光が出ているようなイメージをしてみて。」

「中心から光が出るようなイメージ？う～ん、ちょっとやってみる。『ライト』」

小さい小さい光の粒が空中に現れる。

魔法はイメージ力が大切なのである。

前世で映画や漫画を見てきた俺はその分、イメージ力が豊かであり、有利である。

「わあ、できた！！！できたよ、アルス！！！」

ミカちゃんは俺に抱き着いてきた。

「わあ、すごいねミカちゃん！」

「あっ」

ミカちゃんは少しして冷静になったのかあわてて俺から離れた。

「魔法はできたけど、アルスみたいにはできなかった。だから、魔法が使えるようになったけどこれからも私の家に来てね！絶対だよ！！」

「うん、また魔法を教えに来るよ。じゃあ、今日はもう遅いし帰るね」

「うん、またねアルス。また来てね」

ミカちゃんに手を振り、俺は家へと帰った。