紫音、春斗と邂逅する(2)

「……」

 漫画や小説などで転校生の周りにクラスメイトが群がる、という描写はよくあるが、まさか自分の教室でそれが見れるとは思わなかった。

「ねえねえ、我妻さんはどこから転校してきたの?」

「えっと、親の地元が関東で……そこから!関西は初めてだから、いろいろ連れて行ってほしいな」

「え、一緒に行こうよ!美味しいお店知ってるからさ!」

 そんな会話が漏れ聞こえてくる。

「お前は行かないのか、春斗」

「そういうのに興味ないの、知ってるだろ。暦こそ行かないのか」

 休み時間中、ひっきりなしに寄せては返すクラスメイト達を眺めながらそういう暦に、春斗は横目で紫音に視線を送りながら言う。

「俺は彼女一筋だからな」

「……あ、そう」

 暦は野球部のマネージャーと付き合っている。それはもう仲睦まじい限りで、『リア充爆発しろ』なんて言葉すらむなしく響く。

 それにしても。

 昨日バトルフロントでネオスと戦った時とはまるで違う。あの時はつっけんどん、冷たい、人を拒む……とにかくそう言った類の言葉を並べたてられるくらいには不愛想だったのに。

 にこにこしながらクラスメイトとの会話に興じている紫音だったが、「ごめんなさい、ちょっとトイレに行ってきます!」と言って席を立つ。

「ほら男子、そこ空けなさいよ!」

 クラスの仕切り役の女子が道を空けて、悠然と紫音は教室を出て行く。

 なんとなく、春斗も席を立った。


「我妻さん」

「……何」

 廊下を出て、しばらく。目立たないように後ろから静かに声を掛けたつもりだったが、振り向いた我妻は露骨な無表情をしていた。

「……昨日はどうも」

「ああ。ごめんなさい、クラスメイトの誰かが追ってきたのかと思ってた……」

「まあ、僕もクラスメイトなんだけど」

 我妻は春斗から視線を逸らし、更に奥、二人の教室の方へと視線を飛ばす。

 春斗も気になって振り返ってみると、何人かのクラスメイトがこちらを見ていた。

「……随分目立つものね。こんなに転校生が人気の的になるなんて思っても見なかった」

「場所、変えますか」

 提案のつもりだったのだが、紫音は真顔で「デートのお誘い?」と言う。

 面食らった春斗は「いやいやいや!そんな事は!!!」と慌てて手を顔の前で振って見せるが、紫音は「冗談」と自分で言ったのに一蹴する。

「……それもそれで凹むんだけどな」

「ま、縁があったらって言ったのは私だし。別に構わないわよ。学校だと目立つし、放課後……そうね」

 紫音は少し考えた後、こう言った。

「深夜。昨日のゲームセンター集合にしましょうか」

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空気の読める美少女とオタク少年のロボゲー無双 天音伽 @togi0215

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