紫音、春斗と邂逅する(1)
神山春斗は高校生である。
高校二年生。進路がそろそろ気になる年頃であるが、同時にゲームや趣味がいちばん面白い時期でもある。
そんな時に、春斗はあるゲームと出会った。
『鉄騎無双バトルフロント』。
「まーたバトルフロントの記事見てんのか」
後頭部を叩かれ、春斗は後ろを見る。
「おう、おはよう」
「おう。……眠そうなツラしてるな」
「昨日も晩までゲーセンに居たからな……」
春斗の横の席にどっかと座り込んだのは、諌山暦。暦、と書いて『れき』と呼む。春斗はしばらく『こよみ』だと思っていた。
「未成年のゲーセンは」
「ご法度、だろ?知ってるよ、でも空いてないんだから仕方ない」
「みんな好きだよなぁ、バトルフロント……」
暦が「やれやれ」と嘆息する。彼はがっちりとした体格と揃えられた短髪から分かる通り、体育会系、野球部の部活に所属している。
ゲームとは真反対の部活に所属している訳だが、野球部でも最近バトルフロントにハマっている人が多いと言う。
と、言うか。
「今や全世界で大会が開かれるくらいだからな、バトルフロント」
「e-sportsブームってやつだろ。分からない世の中だよなぁ」
ちょうど春斗が机の上に広げていたゲーム雑誌にも、バトルフロントの世界大会の詳報が乗っている。
『三神、遂に陥落ーーーーーーー』
「そういうランカー?とか言うんだっけか。普段何してるんだろうな」
「さあ……。三神とかになるとプロチームとかに所属してるんだろうけどな」
昨日の『三十六騎』でも大したものなのだが、『三神』ともなると遥か上の存在になる。
当然、春斗はそう言った肩書は付いていない。いつかは……なんて思うのだけれど。
「ゲームを上手くなるにもコツがいるだろ」
「そうなんだけどさ」
昨日の『例外』を春斗は思い出す。
ゲームプレイ自体が初めて。ギアナイトも人から貸し出されたもの。それでも、勝ってしまった。
「天才っていうのは居るんだよな」
「プロ野球選手にも居るぞ、それ」
「どこのジャンルにも居るってこった。俺達の想像を凌駕する天才っていうのはさ」
天を仰ぐ。いいなぁ、俺もゲームを仕事にしたいなぁ。
「お、『カラーシリーズ』のリバイバル版が今月出るのか。いい加減『スカーレット』を買わないとな」
「なんだそりゃ」
雑誌を更にめくって飛び込んできた新情報に春斗が呟くと、横の暦が体を乗り出してくる。
そこで。
「……予鈴だ」
今までざわざわしていた教室が一気に静まり返る。春斗の担任は、とにかく怖い。
ガッ!と教室前の前の扉が開き、強面の巨人が入ってくる。
真面目な生徒は鬼の山本といい、裏ではゴリラの山本と陰口を叩かれている彼の後ろについてきた生徒を見て、春斗は息を飲んだ。
「あっ!」
「神山!うるせぇぞ!!!」
一喝されたが気にしている場合ではない。
制服に身を包んだその生徒は紛れもなく、昨日三十六騎のネオスを倒した少女。
「自己紹介」
「我妻紫音です。よろしくお願いします」
紫音その人ではあった。あったのだが……。
「……笑顔が可愛い!」
「声が可愛い!!」
周囲がざわめく。その評価はおおよそ、昨日強気に振舞っていた彼女の印象からは遠いものだった。
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