春斗、無双の少女と出会う(3)
砂漠フィールド。
バトルフロント最初期から実装されているステージで、遮蔽物が何もないことが特徴のステージ。
「……見つけたぁ!!!」
距離200。立ち止まったままのヴァイオレットを見つけたネオスは、サーベルレパードの背面ブースターを全開。一気に距離を詰める。
「……まずいな」
それを外のモニターで見ていた春斗は、そう呟く。
春斗の知る限り、サーベルレパードは細身の二脚軽量級ギアナイト。
ネオスの手によって増設された大型ブースターで一気に相手に肉薄し、自身の上腕部ほどの長さを持つ鉄の爪で装甲を裂く。
目にも止まらぬ強襲がネオスの勝ちパターンであり、
「貰ったぁ!」
勝ちパターンに入った事を確信したネオスは、サーベルレパードの両爪で一気にヴァイオレットに斬りかかる。
鋭く研ぎ澄まされた爪はヴァイオレットの重装甲を、まるでバターのように切り裂く。
ヴァイオレットも左手に取り付けられたガトリングガンで対抗しようとするが、ガトリングガンは火力は高いが予備動作が遅い。
「そのパターンは……見飽きたぜ!!」
構えに移る前に、サーベルレパードの爪がガトリングガンの銃身を裂く。
「何それ、反則じゃない」
『へっ、ようやく弱音が出たな」
「弱音?うるさいわね、事実を述べたまでよ」
と言い放つ一方で少女は、一つの事実に苦しんでいた。
「重い!!」
ヴァイオレットはサーベルタイガーとは真逆の、二脚重量級ギアナイト。
大型の武装を多数搭載しており、ミサイルであれガトリングガンであれ、当たればサーベルレパードに致命傷を与えられるものの、いかんせん動きが早すぎるので当たらない。
そして。
「……見えては、いるんだけど」
「……まさか、見えてるのか?」
縦横無尽に繰り出される爪の連撃を、重装甲でなんとか耐え凌ぐ少女。
その動きが変わった事に最初に気付いたのは、外から見ていた春斗だった。
今まで爪の攻撃を受けるがままだった少女が、じわりじわりと攻撃を避け始めている。
そのきっかけに春斗は、気づいた。
少女に見えるのは、『殺気』と言う名の線。
黄色い塗装にヒョウ柄模様、悪趣味極まり無いと少女が思う機体が繰り出す爪から、赤い線が見える。
その線は、未来に飛んでくる攻撃の軌跡。
見えているのだから、良ければいい。だがヴァイオレットの機体重量が彼女の操作についてこない。そのもどかしさで少女は苦しんでいた。
そして、気づく。
「……少し、反応が軽くなってる」
始めはガトリングガンが無くなった時。次は切り裂かれた表面装甲が剝がれ落ちた時。爪の攻撃を防ぐべく翳した左腕は切り裂かれるものの、剥がれた装甲の中から一回り小さくなった腕が見える。
「ひょっとして、これ、脱げる……?」
その思考を読んだヘッドセットが反応をする。
「……!」
閃光、そして飛散する鉄片。
反射的に下がったサーベルレパードの装甲に、飛散した鉄片が降り注ぎ鈍い音を立てる。
閃光の後に立っていたその姿。
「ヴァイオレット・ノーブル……つまらねぇマネしやがって」
重装甲で身を固めたヴァイオレットは、装甲をパージする事で二脚軽量級ギアナイト『ヴァイオレット・ノーブル』に姿を変える事が出来る。
ヴァイオレットとはうって変わって細身のシルエット。どこか女性を思わせるそのシルエットに、
「だが、カモだ」
ネオスはニヤリと笑った。ノーブルモードは装甲が非常に薄くなり、胴を一突きすればそれで勝負が終わる。
手間が省けた。これでクソ生意気な女をぶち殺す事が出来る。
サーベルレパードが跳躍。正面から斬りかかると見せかけ、背面ブースターで強引に軌道を変更。ヴァイオレットの反応しきれない死角から爪を一突き。
だが。
「……!!!!」
その爪は、宙を切った。
「バカな」
まるで瞬間移動でもしたかのように、ヴァイオレットが数m先へと移動している。
再度跳躍。軌道変更、死角からの一突き。
まぐれだ、そう何回も避けられるはずがねぇ。たまたまブースターを吹かせただけ だ。
その慢心は、サーベルレパードの頭部と共に砕け散った。
「……勝った」
ヴァイオレットのハンマーによって二回、三回。
殴打を受けたサーベルレパードは最初に頭部、次に自慢の左爪、最後に胴体を砕かれ、沈黙した。
バトルフロントコーナーが静まり返る。転がり出てきたネオス、悠然と現れる少女。
「……バカな、そんなバカな」
「さ、約束果たしてもらおうか。ケーサツ」
「ちっ、覚えてろ……!」
最初の威勢はどこへやら。まるで三下の捨て台詞を吐きながら遁走するネオスに、少女は嘆息する。
「あーあ、情けない……まあいいけど」
少女はそれからスタスタと春斗の方にやってくると、手に持っていたヴァイオレットを彼に渡した。
「ありがと。助かったわ」
「……まさか、本当に勝つとは思わなかったです」
「言ったでしょ。やるなら勝つだけって。それだけよ」
少女は言うだけ言うと、その場を立ち去ろうとする。
「あ、あの……」
「何?」
相変わらずよく通る声は鋭く、気後れしてしまった春斗だったが、彼は尋ねた。
「な、名前は……」
「ああ」
少女は振り返って、春斗に言った。
「我妻紫音。縁が合ったらまた会いましょ」
今度こそ立ち去る紫音に、春斗は呼び止める事が出来ない。冷たいながらもどこか魅力的な少女だったな、と思う春斗が、
「また会いたいな……」
そう思うのは無理からぬ事だった。
そしてその再会は、早々に果たされることになる。
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