第29話「終戦後・真実」

「んじゃあ、今度は僕の質問に答えてくれよ。この就活戦争に、一体何が仕組まれているのか。


「お聞きしたいことはそれだけでよろしいですか?」


「他にも聞きたいことがあれば色々と訊くよ。僕だって秘中の秘を教えたんだ。多少の譲歩は許してほしいものだな」


「そうですね――表向きは子ども世代の増加による選別、就職活動斡旋業者との連携による、殺戮行為の許容、より良い人材を集めるための最も効率的な一つの方法――ということになっています」


「そうだな、僕らも学校ではそう教わってきた。ただ、そうじゃあないんだよな」


「ええ、それが、裏向きの理由です。そもそも就活戦争を一番に導入したのが、我々でして」


「ああ、知ってる。それも有名だよな――就活サイトに書いてあったからな」


「ええ。我が戦争社では、『超能力を持った人間を人為的に開発する』ことを目標として活動しています。そのためには多くのデータが必要でした。まあ、ただの凄い人という訳ではありませんからね。超能力を持つという人間を世界中から集めましたが、幼かったり、老体であったりで弊社の治験に耐えることができなかったのです」


「……」


「だからこそ――最も人間が成熟した段階において行われる就職活動に、戦争という制度を導入させたのです。彼らが殺し合うだけで超能力のデータを取ることができます」


「戦争社からの、あの12番と13番の奴を後から導入したのは?」


「生物兵器の実験です。あの2体は、戦争社製の元人間です。超能力者というより、やはり兵器という側面が高いですね。道欠失彦は核田里帆、二重谷捩香は入間導に対抗するために、それぞれ調節されております」


「……ふうん、実験、ねえ」


「何か、思うところがあるのでしょうか」


「死んだ奴に、別に何かを思ったりはしないよ。それで?」


「それで……と申しますと」


「表向きと裏向きは分かったよ。じゃあ、本当の目的を教えてくれよ」


「本当の目的、でございますか? 表面も裏面もあるというのに、それ以上がありましょうか」


「物事が表と裏だけじゃあないことを、僕は知っているんだよ。それが、社会人ってものだろう?」


「…………」


「黙っても別に良いぜ。断片的だが情報は知っている。入間の『誓約』によって、道欠の情報が開示されてから入間が死ぬまでの間、僕は一度だけ、『共感神経シンパシー』を使っているんだよ。お前らが情報漏洩を危惧して、二重谷捩香で攻撃させたんだろ?」


「……まさか、入間導があの後、生きていたと?」


 ここで初めて、頚城氏の表情が変わった。


 染谷は何も言わなかった。


「あの掻き出す攻撃を受けて、能力も使用不可能で、フラフラだったけれど、腹に穴は開いていたけれど、生きていた。ほんの数秒だけどな。『共感神経シンパシー』は死んだ人間には使えない。死人に口無しって奴だ。数秒間ではあったけれど、入間が得た情報は、断片的にだが僕にも開示されている。さあ――事の真相を教えてもらおうか。就活戦争とは、何なんだ。どうして僕らは、殺し合わなければならなかったんだ」


「…………」


 頚城氏が、少々黙った。そして軽く手を挙げて、周囲で気配を殺していたシークレットサービス達を引かせた。


 今までの柔和な口調を少しだけ控え、はっきりと克明に脳に響くような声で、頚城氏は言った。


「……まさかそこまで、ご存知でしたとは」


「僕だけの功績じゃねえよ」


 入間導は勿論、企業側の策略に気付いた柴発生、怒隈竜電、そして自ら敗北を認めた細井ゲノム――彼ら彼女らの協力と推察がなければ、ここまでの思考に到達することはできなかっただろう。


「さあ、本当のことを話すって、あんた、言ったよな?」


「……良いでしょう」



 全ては、入間導の、『約定鎖掟プロミス』を手に入れるためですよ。



 頚城氏はそう言った。

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