第26話「胎動」
*
途端。
がくん――と。
二重谷の意識が飛びかけた。
全身から力が抜けて、コンクリイトに頭蓋をぶつけそうになって、
何が起こったのか、二重谷には理解することができなかった。
彼女がした行動は一つ。自身の心理と密接に融合した『
しかし違った。
『搔把式(トラックダウンミキサー)』は、能力そのものではなく、それを形作っている精神構造そのものを人間から掻き出す。
そしてその能力は、被取得者の成長度合いと同一となる。高城翻訳が自身を電気的に改造できるようになるまで使用しなかったのは、そういう理由である。
ただ、今回はそれが仇になった。
『
その誓約結果までも、二重谷は掻き出してしまった。
結果。
『
ここで重要なのは、二重谷捩香にとって、『搔把式(トラックダウンミキサー)』が、ほとんどを占めていたということである。
企業から入間に対抗するために製作され、超能力を与えられた彼女は、ある意味能力に使われていた。
それを彼女は良しとしていたし、身を委ねていた。いわば精神的支柱である。
ならば。
それが急に停止したとしたら?
「~~~~~っ!!!!」
心が折れそうになるのを、ギリギリのところで防いで、両足で立ち直る。
――落ち着け
――能力使用不可能とはいえ、まだ敗北が確約した、という訳ではない。
ただ、これは失敗であった。
そうして無理をして立とうとしたがために、二重谷は、気付くのが遅れた。
能力による介護のない状態で――それを受けてしまえば。
生物化学の天才、亜白間街であれども、それに耐えきることができなかった。
「が――はっ」
血が、身体の中から噴き出た。
何が起こっているのか、理解できなかった。
二重谷全身の血管という血管が、骨という骨が、筋肉という筋肉が、何らかに蝕まれていくように――
「こ――これ、は」
その症状には、覚えがあった。
二重谷は、事前に、企業側から全員の情報を提供されている。
だからこそ、すぐに思い至ることができた。
「細井、ゲノム!」
「毒、ですよう」
ビルの影から、そんな声が聞こえて――見ると。
そこには、同じく血を吐いているボロボロの細井ゲノムがいた。
――精神的支柱を失い、身体の自由を失ったその瞬間に。
――狙い澄まして、毒物を?
何というタイミングだろう。
戦闘が不可能だとして、先程捨てて来た人間が、なぜかそこにいて、自らに歯向かっている。
その状況が、二重谷には、理解できなかった。
「い、いや――なぜ、アナタがここに、もう動けなかったはず」
そう。
細井の身体は自らの毒に犯されて、既にボロボロであった。
もう数歩も動くことも、毒物を使用することも叶わない。
だからこそ、二重谷は。
勝手に死ぬだろうと思って捨てて来たはずの人物だった。
そのはず――なのに!
(続)
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