第25話「対話」

 

「戦わないのかよ」


「ええ、戦わないですよう」


「…………」


「…………」


「…………」


「そうじっと見られると照れますよう」


「あ、ごめん」


「連続する状況の変化の度に毒物を作り直していましたからあ、わたしにはもう、それに耐えられるだけの体力が残っていませんよう」


「……そう、なのかよ。


「! どうして、それが……分かるんです、よう」


「僕は人の気持ちが分かる男の子、だからな」


 見て分かるくらいには、細井は襤褸襤褸ボロボロであった。


 ――高城がそうであったように、恐らくこの細井も、相当無理を重ねているはずだ。


 ――毒、と言っていた。


 ――薬品遣いか?


 ――そう考えると得心がいく。


 ――自分に人知を薬物を投与し続ければ良いというだけの話だ。


 しかし、そんなことを続けて、肉体の方が持つわけはない。


 正直細井は、もう既に立っているのも限界であろう。


 それは、染谷にも分かった。


「……今まで誰にも、バレたこと、なかったんですよう」


「そりゃ、就活戦争で他人を気にする馬鹿なんて普通はいないからな。ったく、どいつもこいつも、人間の枠を超え過ぎなんだよ」


「あなたは相当の馬鹿ですよう」


「言ってくれるじゃないか。それで? あの二重谷って奴の駒として、あんたは僕を殺すんじゃないのか」


「そう、でも良かったんですよう。というか、そうすることが、正しい流れだったというかあ」


「正しい流れ、ねえ」


「そうですう。正しさというものが、確実にあって――世の中には色々な人がいるとか言って適当に逃げている人間は、いつも弱者の私たちにそれを押し付けるんですよう。最後までわたしは、本当はそれに乗せられるだけ、だと思ったんですよう」


「ふうん、君はそれで良いわけだ」


「! 良い訳、ない、です、よう」


「声色が小さくなったな。まあ、僕も弱者の側だから、気持ちは分かるよ。名前の知られている凄い奴の能力ことばが、ここじゃ優先されるからな。半端に共感されるのも嫌だろうけれど、それでも半端に共感してやる――細井ゲノム、


「わたし、は、ですかあ」


「そうだ。お前は、だ。僕はお前の気持ちが、半端だけど分かる。つまり協力者になり得るってことだ」


「私たち二人だけで、何ができるんですかあ。分かっているんですかあ。二重谷さんが、企業側からの刺客であってえ、この最終戦考は、あらかじめ企業側から仕組まれた何かがあって、私たちはそれを演出するための糸に過ぎない、ってえ」


「できる――僕ならできる」


「……自信満々、ですねえ」


「そりゃな。だからこそこうやって監視カメラの干渉の無い場所まで来て話しているんだから」


「もしも私が裏切って、あなたを毒殺していたら、どうしていたんですかあ」


「その時はその時だよ。諦めていた」


「ふうん――いさぎいいんですねえ」


「何もせずに諦めてはいられないってことだよ。諦めて死ぬなら、最善を尽くしてから死にたい。それが入間の願いでも、あったんだからな」


「……随分――仲が良かったんですね」


「ん、何か言ったか」


「何でもありませんよう。でも――分かりましたよう。一つだけ、私のお願いを聞いてほしい、ですよう」


「いいよ、何」


「私を――」




(続)

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